■ 3



屋敷に先行させたトカゲに周囲を探索させ、人がいないことを確認してその後を辿る。表の方では東方仗助と虹村億泰がまだ争っているようで、何やら雄叫びが聞こえる。

賢吾は顔を顰めた。あのような野蛮な声は嫌いだ。意味がわからない、理解が出来ない。そもそも不良と呼ばれる人種に関しては、同じ学校の生徒だとか、同年代の少年だとか、同じ枠に入れられることすら嫌だった。自分は極めて真面目に、静かに暮らしている。それなのに奴らときたら学校でも町でも好き勝手に行動して周囲に迷惑をかけるのだ。彼の個人的な意見としては、さっさと退学でも逮捕でもしてしまえばいいと思っている。


少し進むと裏門が見えた。さすがに入ることは憚られるため、探索の手を増やすことにする。
彼のトカゲは、最大六匹まで姿を見せる。以前、「こいつに仲間はいないのだろうか」と考えていたところ、わらわらと現れて六匹ずらりと賢吾の前に並んでみせた。それ以上は増えなかったため、トカゲは六匹しかいないという結論に達している。

二匹を探索に出し、一匹はポケットに潜ませておく。音もなく雑草を掻き分けていったトカゲ達と、視界を共有する。一匹は屋敷の中、一匹は表へ。目を閉じると、それぞれの景色が見えてきた。


表の方では、相変わらず二人が争っている。一旦そちらから意識を外し、屋敷の中の様子を探った。人が暮らしているような痕跡は見られるが、快適に暮らせるかといえば疑問を感じる程度には朽ちている。潔癖のきらいのある賢吾眉をしかめた。

素早く程度一階をうろついて、階段を昇る。表門の様子が窺えるであろう窓の近くに――人影が見えた。


「!」


慌ててトカゲに隠れるよう念じる。壁に入った小さなヒビの隙間に身を隠すと同時に、またしても『変なもの』が見えた。


「玩具の人形か……?それにしては物騒だが……」


窓辺に立つ人間の近くには、ミニチュアの人形のようなものが整然と並んでいた。それぞれ銃などの何かしらの武器を持っている。賢吾は、『それら』が今自分が操るトカゲと似たようなものではないか、と直感的に考えた。

何せ、動いているのだ。銃を持った歩兵の人形は、周囲を警戒するように視線を動かしている。それに、人影の頭の辺りにはラジコンのようなヘリコプターがいくつか浮いているしかし、人影がリモコンを持っている様子はない。つまりあれらは、自動なのだ。


表玄関付近での二人の争いに介入するつもりなのか、人影が移動を始めた。歩兵が先導していく後ろをカツカツと歩くその男、隙を見て賢吾は彼の制服の裾あたりまでトカゲを登らせた。本当ならば肩の上にでも乗せて周囲の状況を把握したいが、そこまですればバレてしまう。トカゲに大した重さはないとはいえ、自分の存在が露見すればいやでも巻き込まれ、最悪の場合殺されるかもしれない。巻き込まれるのでさえごめんだった。

しかしここまで見てしまった以上、最後まで見届けないと安心できないのも確かである。この奇妙な出来事は、自分のトカゲのような、不可思議な存在を巡るものだということは察しが付く。仗助が命を狙われる理由が『不思議な存在を傍に置いている』というものならば、自分もその枠に入ってしまう。安全であるという保証を得るまでは目を離せなかった。


人影は億泰の兄のようだった。直々に仗助に手を下そうと外まで出てきたらしいが(その際『矢』がどうとか聞こえたが、トカゲの位置から様子を伺うことはできなかった)、玩具の兵隊達の放った攻撃は仗助を直撃するはずだった。



「な……!」



理解が追いつかない。
攻撃を察知したらしい仗助が身を躱したため、彼に当たる筈だった銃弾は億泰の身体に無数の穴を開けた。どっと血が吹き出し、倒れる億泰。

「どこまでもバカな弟だ」と男は吐き捨てた。

絶句する仗助を尻目に、「おまえはそのままくたばって当然だと思っている」と追い打ちをかけ、実の弟ごと仗助を亡き者にしようと更に攻撃指令を出す。億泰を抱えた仗助は、彼の傍に控える謎の存在に壁を殴らせて破壊すると、その向こうへ身を翻した。

次の瞬間、壊された筈の壁が直っていく。どうやら仗助の能力は「物を直すこと」だと推測していると、億泰の兄は地面に落ちていた『何か』を掴んだ。


それは、『人の足』だった。すぐ近くに倒れていたらしい小柄な男子生徒。だらだらと流れた血で汚れているが、あの制服は間違いなく賢吾の通うぶどうヶ丘高校のものだ。
既に誰か巻き込まれたのか、と眉間の皺が深くなる。正義感の強い人間なら、血塗れの生徒を助けなければと思ったかもしれないが……生憎と、賢吾は自分の身が大切だった。ゆえに、覚えたのは「自分も巻きこまれたらああなる」という恐怖と警戒心だった。


――これは、本格的にまずい。


賢吾は離脱を決意した。トカゲと自分はかなりの距離を置いていても視界の共有は可能だ。これも以前に実験したため把握している。逆に、一定距離を置いてしまうとトカゲを維持できなくなる。一匹を億泰の兄に、もう一匹は仗助の後を追う形で屋敷に残し、ギリギリまで離れることにした。



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