■ 12

さてどうしたものか、と賢吾は少し首を傾げた。『スタンド』――自分ならばあのトカゲのことだ――が使える、ということは既にばれている。恐らく仗助の口から聞いたのだろう。
目の前の男、空条承太郎はこちらが『スタンド使い』であること、そしてトカゲの能力も大まかに把握していると考えてよさそうだ。そうであれば、話は早い。


「『スタンド』、というのはこいつのことで間違いありませんね?」


テーブルの上、承太郎の前に置かれたコーヒーカップの陰から鮮やかな青い尻尾のトカゲが顔を出す。仗助が悲鳴を上げるが、誰も気に留めることはなかった。


「そうだ。『スタンド』とは精神の具現化した像だと考えてくれ」

「つまり人によって姿も能力も異なる、と」

「その通り。俺のは『スタープラチナ』、こいつだ」


言った途端、承太郎の背後から青い人影が現れた。天を向く黒髪に、本体とよく似た緑の瞳。筋骨隆々としたその影、『スタープラチナ』は、シンプルに『力』というものを連想させた。
承太郎に続くように仗助、億泰もそれぞれ背後に自らの『スタンド』を出現させる。『スタンド』とはヒトの形をとるのが一般的なのだろうか、と疑問を覚えた。賢吾の『リザード・テイル』はそのままトカゲであるし、数も六体いる。まじまじと三人の『スタンド』を見詰めていると、承太郎が再び口を開く。


「『スタンド』に常識だとか、そういうものは通用しない。『スタンド使い』の分だけ種類も能力もある。確かに、ヒトに近い形であるものは多いがそれが全てではない」

「賢吾の『スタンド』はよォ、何つー名前なんだ?オレのは『ザ・ハンド』っつーんだぜェ〜」

「オレは『クレイジー・ダイヤモンド』……知ってると思うが、壊れたモンとか、怪我とか治せる能力だぜ」

「『ザ・ハンド』はなぁ、削るんだぜェー!この右手でこう、ガオン!ってやるとどっかへ行っちまうんだ」


得意げな顔をしている二人。自分達の能力に誇りを持っているらしいが、これは誘導尋問なのだろうか。承太郎は相変わらずの無表情だし、強要されている様子はないが話した方が良さそうな空気というか、仗助と億泰の顔にはありありと「聞きたい」と書かれている。――賢吾は顔を引き攣らせた。


「……君の『スタンド』の能力について、無理に話す必要はない。能力を知られることは命取りだからな」

「……どうも」


そもそも、賢吾とてトカゲの能力を完全に把握しているわけではない。自分以外の人間の身代わりになることが出来る、ということすら昨日初めて知ったのだ。詳しく聞かれたところで言葉に詰まるのが精々だっただろう。
承太郎の助け舟はありがたいが、どうせ既にばれている程度の情報なら渡してもいいだろう。敵意がないという証明にもなるし、話が長引くのもよろしくない。


「僕の『スタンド』――こいつの名前は、『リザード・テイル』。能力は身代わり。……もっとも、自分以外の人間にも効果があるというのは昨日初めて知りましたが」

「虹村形兆なら入院中だ。重傷ではあるが命に別状はない――感謝する」

「マジでありがとうなァ賢吾、おめーのお陰で兄貴は、」


ぐっと言葉を詰まらせ、億泰が泣き出す。仗助が背中を些か乱暴に叩いてやっているのを横目に、承太郎に向き直った。


「それで?僕が話せるのはこれで全部ですよ。『スタンド』の能力も話した。昨日居合わせたのは偶然でしかない。
……これ以上、話すことはない筈だ。帰らせていただきたい」


昨日の今日なのだ。家に帰るのが遅れれば、また母を刺激してしまう。平穏な日常に戻りたい身としてはそれはどうしても避けたい。
『スタンド』を用いたいざこざなど、知ったことではない。承太郎には何かまだ目的がありそうだが、それに関わる気は微塵もなかった。


「……急に呼び出した以上、これ以上引き留めることは出来ないな。だが、一つ警告をしなくちゃあならない」

「警告……?」


承太郎の緑の目が、射抜くような鋭さで賢吾を見る。たじろぎながらも見つめ返せば、彼は限りなく真剣な声で言い放った。


「『スタンド使いは引かれあう』――。今この町では、『スタンド使い』による事件が多発している。君も『スタンド使い』である以上、巻き込まれる可能性があるって訳だ」

「……それは、僕の意思とは無関係に?」

「そうだ。今、君がここにいることが何よりもの証明だろう」


――そうだった。

関わるつもりなどなかった不良たち――東方仗助と、虹村億泰。そして空条承太郎。彼らとの接点が出来てしまったのは『スタンド』が原因だ。自分は既に巻き込まれてしまったのだ、と自覚する。そして思い出した。電線に引っかかり、身体から煙を上げて死に絶えた虹村形兆の姿を。
賢吾がトカゲをくっつけていたという偶然だけで助かったものの、そうでなければ命を落としていた。『スタンド使い』と関わるというのは、こういうことなのか。


ぞわりと背筋を駆ける悪寒に身震いする。そんな賢吾を承太郎はじっと見ていたが、やがて帽子の鍔を下げて「やれやれだぜ」と呟く。


「君の能力であれば、最悪の事態は免れるだろうが……何か起こるとも限らん。もしもの時は、仗助達か俺に連絡しろ」

「はっ!?」

億泰を宥めるのに専念していた仗助が素っ頓狂な声を上げる。賢吾も顔がより引き攣るのを感じていた。険しくなる視線そのままに承太郎を睨むが、何処吹く風といった様子だ。


「いいな、仗助に賢吾。下らない意地なんか張るんじゃあないぜ……何か起きてからでは遅いんだからな」




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