■ 9


連絡を受けた承太郎が現場に到着したのは、二十分ほど経った頃のことだった。

車を降りると、何か作業をしていたSPW財団の男が駆け寄ってきて細かに状況を説明し始める。スタンド使いを増やしていたのは虹村形兆だということ。東方仗助は虹村兄弟と戦闘になり、これに勝利。巻き込まれた広瀬康一もスタンド使いとなった可能性が高いが、出血量の関係もあり今は話を聞ける状態ではないということ。


無表情に全てを聞き終えてひとつ頷きを返し、承太郎は話が終わるのを待っていたらしい仗助の元へ向かった。「承太郎さん!」と安心したように笑う彼にもひとつ頷いてやりながら、「何があった」と尋ねた。SPW財団の職員が知っているのは、あくまでも事件の後のことだけだ。実際に虹村兄弟と戦ったという仗助から、詳しい話を聞く必要がある。


もー大変だったんスよ、から始まった仗助の話は、意外とシンプルに纏められた内容だった。流石に虹村兄弟の父親の話になると言葉を濁したが、そこには億泰の補足が入った。
意外と言えば、億泰の態度も意外であった。兄が無事であった喜びが何よりも勝っているのか(或いはそれしか頭にないのか)、承太郎にも仗助にも従順で、聞かれたことには素直に答え、彼の知る限りの情報を提供した。


――そして、話は形兆が襲われた時のことへ。


「確かに、億泰の兄貴は『レッド・ホット・チリ・ペッパー』にやられちまった筈なんスよ。オレたち、確かに見たんです」

「そこの電線のとこによォ……兄貴が、引っかかって、オレ……『兄貴は死んじまったんだ』って、わかっちまって……」


その時の光景を思い出したのか、億泰の目にぶわりと涙が浮かび再び号泣し始める。「泣くなよォ〜」と困った顔をしつつ、仗助は背中をばしばしと叩いてやっていた。――案外、いいコンビなのかもしれない。
視線で先を促すと、頬を掻きながら仗助は細かな状況を思い出そうと宙を見詰め、ああそうだ、と勢いよく承太郎に詰め寄った。


「トカゲ!トカゲが降ってきたんスよ!そしたら億泰の兄貴が『生き返った』!!」

「……仗助、落ち着いて話せ。こっちはお前が何を言いたいのかさっぱりだぜ」


溜め息を吐きながら仗助を引きはがす。だが依然興奮したままの仗助は、止まらなかった。


「そんでそのトカゲはスタンドで、辰沼がスタンド使いだったんですよッ!!」

「待て。……その辰沼ってのは誰だ?」

「辰沼賢吾、ウチのクラスの委員長っスよ。まあとにかくいけ好かない奴なんですけど、まさかスタンド使いだったとは……」


口開けば嫌味ばっかだし、センコーにはいい面してっけど生徒、特に不良っぽい奴らのことなんか人間扱いすらしてねーみたいな、と仗助がつらつらと並べ立てているのを話半分に聞きながら、承太郎は何か考え込んでいる。普段の仗助ならばその様子に気付いただろうが、今は興奮していて無理だった。


「……あいつ。委員長、辰沼賢吾っつーのか」


そんな中、億泰が呟いた。泣きはらした目を真っ赤にして、ぐずぐずと鼻を啜っている。仗助がそうだと肯定してやると、彼はぱっと顔を輝かせた。


「じゃあ、あいつが兄貴を助けてくれたのか!」

「いや〜……その辺わかんねーんだよなぁーっ。どう見ても『事故です』、って顔してたしよォ……」

「ジコでテコでもなんでもいいっつーのォ〜!あのトカゲが賢吾の『スタンド』だっつーんなら、兄貴を助けてくれたのは賢吾ってことだろォー!」


すっかり噂の『辰沼賢吾』を恩人だと思い込んでしまったらしい億泰と、奴はそんな柄じゃない、でも助かったのは事実だしと悶々とする仗助。

二人を横目に、承太郎は考える。


「身代わりの『スタンド』――……。辰沼賢吾、か」


会ってみる必要がある。手っ取り早いのは仗助と億泰に協力を仰ぐことだが、どうやら二人では相性が壊滅的に悪いらしい。一方的にではあるが、蛇蝎の如く嫌われている。

ならば、自分で動くしかない。しかし何の接点もない大人の男がいきなり現れたところで警戒させるだけだろう。他にもやらなければならないことは沢山あるというのに、面倒なことだ。しかし、会わないという選択肢はなかった。


「やれやれだぜ」


お決まりのように呟いて、承太郎は帽子の鍔を下げたのだった。



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