あの子のお話
ずっと鏡を見ている気分だった。でもやっぱり鏡じゃあなくて額縁だったのかも知れないなあと思うの。
あたしは兎に角ただずっと椅子に縛り付けられたみたいに見ているだけ。一切の干渉は許されない。
そのあたしの視線の先では、あたしによく似た誰かがとても酷い目にあっていた(というかあたしだった)。
殴る蹴るは当たり前。時には煙草を押し付けたり、ざくざくと文具用の鋏で顔を切りつけたり。
あたしの体はイメージで出来ているからかあんなふうにぐちゃぐちゃになることは無かったけれど、同じ顔をした同一人物が痛めつけられているのを見続けるのは正直ぞっとしない。
でもまあこれがあたしのお仕事だから仕方が無いのだ。もうこれで何度目かも分からないけど仕方が無いの。
ほうら、ね。
あの子を大好きなオーベムが来たよ。分かってる。全部あたしが持って行く。あたしはこれから死んじゃうけど、あの子のことをよろしくね。大事にしてあげてね。なるべくならまたあたしがいらないようにしてあげてね。
さよなら、あたし。