忘れてしまうという事
忘れてしまいたいの。
×××は笑わずに言う。
痣だらけになった体。ずたずたに切られた髪。おかしな形に固まってしまった指。お湯を被せられて火傷なんかもしている。片目は潰れてしまってもう開かなくなっているし、強く打ったせいで耳も片方聞こえなくなってしまっていた。
『酷いことをするね』
僕がそう言うと、×××は不器用に笑って「あたしが悪いの」と言うだけ。
あたしが駄目な子だから、お母さんもお父さんも怒るの。だからあたしが悪いの。あたしが悪いのよ。
いつも×××が言っていた魔法の呪文。呪文というよりはいっそ呪いと言った方が正しいか。
そうやって必死に良い子になろうとしていた×××を、×××のお母さんとお父さんは気味が悪いとまた怒るのだ。やっぱり、酷いと思った。
笑わない×××は、気を引こうと必死に笑顔を作っていた時や、燃えている納屋を笑いながら(或いは泣きながら)見ている時と一緒の表情をしていた。
「ねえオーベム、もう忘れてしまいたいの」
『いいよ。忘れてしまおう』
サイコパワーを使って消去消去消去。
痛いこと、辛いこと。全部は消えてはくれなかったから、×××は知らないあの子に押し付ける。
あの子のことも好きだけれども、僕は×××の方が大事だから、また僕はあの子を見殺しにする。
もう一度、もう一度。
みぃんな忘れて、ゆっくりお眠りよ。
あの子の話