なんてことない日常のお話

 甘くない夢の場合。


とても辛いことがあったのです。
もう何も考えたくないのです。もう頑張りたくないのです。一歩も動きたくないのです。
『もう一歩前に進もうよ。×××ならきっと出来るよ』
 手足と耳の先が赤い、ウサギのような小さなポケモンが私に言いました。
「ねえプラスル、もう頑張っているのにあなたはまだ頑張れと言うの?」
 ウサギのようなポケモンに尋ねてみました。私はこんなにも頑張っているのに。まだ足りないと言うの。
『本当に頑張ったの?他に何か出来ることはないの?』
『頑張りに終わりはないんだよ。出来ることもやれることもまだまだ沢山転がっているんだ』
『自分に限界を決めてはいけないよ。君が君であることに誇りを持って』
 ウサギのようなポケモンの言葉はまるで砂糖のように私に染み込んできました。
 決して甘いだけではなく、どこかまた頑張れるような。そんな響きのある味でした。
「また、頑張ってみようかな」
『それがいいよ!×××ならきっとできるさ!さあもうすぐ朝だよ。×××に出来ることは、或いは×××にしか出来ないことかも知れないんだ。もっと自身を持って!』
 ウサギのようなポケモンはひらりと手を振って消えてしまいました。
 どうしてか、今日もまた頑張れそうな、そんな気がするのです。



 甘い夢の場合。


とても辛いことがあったのです。
もう何も考えたくないのです。もう頑張りたくないのです。一歩も動きたくないのです。
『君はそこにいていいんだよ。×××はとてもよく頑張ったものね』
手足と耳の先青い、ウサギのような小さなポケモンが私に言いました。
「ねえマイナン、もう私は頑張らなくてもいいのかな。もう疲れてしまったの」
 ウサギのようなポケモンに尋ねてみました。私はもう嫌なの。何も考えたくないの。でも本当にそれでいいの?
『君が頑張ったと思えるならそれでいいんだよ。立ち止まってしまってもいいんだ』
『疲れてしまったなら休めばいいさ。それでまた頑張ろうって思えるならきっと立ち止まることだって大切なんだ』
『今はゆっくりお休みよ。別に×××は間違っていないんだ』
ウサギのようなポケモンの言葉はまるで人工甘味料のように私に染み込んできました。
 どこまでもどこまでも、いっそ噎せ返ってしまうような甘さの。それでも依存せずにはいられない。そんな響きのある味でした。
「少し、お休みしようかな」
『それがいいよ。×××はもっと自分を甘やかしてしまってもいいんだ。さあもうすぐ朝だよ。自分のペースをしっかり守って、無理をしないようにすればいいさ』
 ウサギのような生き物はひらりと手を振って消えてしまいました。
 どうしてか、少しだけ気が楽になったような、そんな気がするのです。


 優しい人は前に進めと言います。優しくない人は進まなくてもいいと言います。
 けれど、どちらが本当に優しくて、或いはどちらが本当に優しくないのか。私にはさっぱりわからないのです。
 それはやはりあのウサギのようなポケモンたちにもよく分かっていないのだと、思うのです。
 朝ごはんをパンにするかご飯にするかと同じような気軽さで決まってしまうその質問の答えは、どちらも正解でどちらも間違いでしかないと、私の足元で左右対称に笑っています。
 今日も晴れそうです。




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テーマ「人外ファンタジー」
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