彷徨う銃口
目を開けるとそこは戦場だった。
小さな鉛の塊はいとも簡単に命を奪う。
音速で吐き出され、行き交う弾丸は19×9mmパラベラム弾。
口径が小さく反動が少ない。その上弾道もフラットで使い勝手の良い弾だ。
比較的安価で手に入るため、私と同じ頃に作られた兄弟姉妹の多くが、この弾を使っていた。
さて、この段階で私は夢を見ているのだと気がついた。
酷く不快だった。覚めろと願っても、一向に現実に帰り着くことはない。
閉じることが出来ない目蓋の前では、私の罪が再演されていた。
人間が人間を殺すための道具として作られた私たちは、時として人間だけでなくポケモンだって殺した。
硬い甲殻に覆われていても、丈夫な鎧を身に着けていても、眼球さえ撃ち抜いてしまえば皆脳が壊れて死んでしまう。
どれだけもう殺したくないと願っても、所詮道具。私たちに自由意志はなかった。
戦い続けることを強要された、あの場所での私たちの扱いは酷いものだった。
ジャム(弾詰まり)を起こして打ち捨てられた子。着剣装置がないのに無理矢理に剣を括り付けられた子。弾切れを起こしてもなお、鈍器として扱われる子。杜撰な整備のせいで内部にゴミが入り、暴発して壊れてしまう子。
人殺しの弾丸を吐き出す私たちも、次々に使い捨てられていった。
血のにおい、火薬のにおい。引き裂かれる音、倒れる音。断末魔、咆哮。
感覚もとっくに麻痺して、罪悪感は弾丸とともに吐き出しつくした。
そんな非日常のある日。
私の吐き出した弾丸が大型のポケモンを撃ち抜いた。
それと同時に、スピーカーからノイズ混じりの声で、敵国の降伏と戦争の終結が告げられた。
私は生き残った。
生き残ったはずだった。
戦争も終わってしまい、ただの人殺しの道具の私たちは用済み。
驚く間もない位にあっさりと、私は捨てられた。
焼却炉の中で、燃え上がるボディと熱を持ち少しずつ崩れだす銃身。
ああ、私はあんなにも生きていたかったのに。
目が覚めた。
モンスターボール越しの朝日が少し眩しい。
果たして物に魂があるのかどうか、私は知らない。そして物が生き物に生まれ変わることが出来るかどうかも、また知らない。
ああ、ご主人が来た。今日は一体何の御用だろう。
「挑戦者が来たわ。行きましょう、×××」
「オンミョーン」
私はミカルゲ。108の罪人の魂が寄り集まりできたポケモン。生まれながらに罪を負ったポケモン。誰よりも、生きたいと願ったポケモン。
私はあの日とはまた別の戦場で戦う。今を幸せに生きるために。