天幕の内側における事の仔細
自分があの少女を拾ったのは実に二度目の邂逅の時だった。
フェイタンは夢想する。
それはまだ幻影旅団と彼らが名乗りだす前のこと。
はっきりとした年齢を知らない彼が、まだ十に手が届くか届かないかの年若い少年であった頃、何をするでもなくふらりと入った路地でフェイタンはそれを見つけた。
猫の子一匹どころか草の一本もないそこに、子供が一人座り込んでいた。
彼もまだ十分に子供であったがそれよりもずっと幼い、いっそ小さいと言った方が正しいか。そんな年頃の子供だった。
皮脂と汚れで元の色がさっぱりわからない汚らしい髪と、濁り落ち窪んで、生き物というよりかは死体然とした目をしたガリガリに痩せた子供、それが転がっている石やコンクリート片を貪っていた。
着ているというよりも被っているどろどろに汚れた襤褸の上からでもわかる痩せた骸骨の様な子供。爪が剥がれた小枝の様な腕。
首に手を掛ければそれこそ赤子の手を捻るよりも簡単に手折れるそれはけれど、氷塊を喉に流し込む様な怖気を伴ってフェイタンの視界に飛び込んだ。
その場を離れたのは最早本能だった。気づけばいつもの仲間が呼吸を乱して走ってきた自分を目を丸くして見ていた。
それが一度目。
二度目はとある歓楽街の見世物小屋だった。
彼らが幻影旅団を名乗りだしてからしばし経ったある日。
旅団として比較的大きな仕事をするからと、
当時の旅団員全員に召集がかかった時の話。
全員召集がかかってもそうそう直ぐ集まる訳もなく、比較的早くにアジトに着いていたフェイタンは暇を持て余していた。
退屈だった。血が見たかった。そんな理由で彼は見世物小屋に入った。
その歓楽街で一等大きなその見世物小屋は相当数の少年娼夫を抱えていた。
昼間は当たり障りのない奇術や曲芸を。
日が落ちれば少年達によるストリップショウやら昼間のそれとは比較にならない位に過激なものを。そして所謂スキモノが集まる夜間興行の目玉は、もう使い物にならなくなった娼夫の公開処刑であった。
珍獣と称して舞台に上がる首が二つある子供や、何かの薬を吸ったのかけたたましく歌うように笑う男、両の手足を切り落とされて達磨の様に転がされナイフ投げの的になっている女、獣の腕を自らの腕とを挿げ替えた盲の老人。
そしてそれらに次いで何でも食らう悪食のけだものが出てきた。
いくら身奇麗になっていようと間違えようもない。出てきたのはいつか流星街の路地で見たあの子供だった。
鎖で子供が引きずられてきて舞台の上へ。男娼と思しき綺麗な顔をした少年がガラクタを少女の前に積んでく。
コンクリートの塊、ベニヤ板、先ほど的になって死んだ達磨の女、その他諸々のおよそ人間が食う物でない物が小山を作る。そして少年が一際大きな布を被った何かを少女の前に持ってきたその瞬間、時間にして数刹那あるかどうか。
フェイタンは確かに少女と目が合ったのを感じた。
そこからは地獄絵図だった。最初は何かを運んできた少年だった。
喉笛に噛み付かれてそのままバキバキと小さくなって少女の喉を通った。次は最前列にいた客から順繰りに手当たり次第。最後には地面に這い蹲り食い散らかした残りを舐める子供と、フェイタンだけが残った。
ザリとフェイタンが足を動かせば、少女はじっとこちらを見てきた。感じる怖気はけれど、いつかのそれとはまた違う色をしていた。それが何かは結局分からず仕舞いな訳だが。
気づけばフェイタンは血塗れの生臭い子供を抱えアジトに戻り、そしてまたいつかの様に仲間たちの目を丸くさせた訳である。
以上が彼と彼女の最初であり、天幕の内側での事の仔細である。