01

 ママの時間が止まってしまったのは×××が死んじゃってからだ。

 大きな、絵本じゃ見たこともないだんぷかーっていう車が、砂遊びをしていた×××に突っ込んできた。
 ぼくはがんばって走ったけど、そのころには×××は何かぐちゃぐちゃした赤いかたまりになってて、ママはぐちゃぐちゃの×××をだっこしてどこかを見てた。


 ママは×××といっしょに病院にいってしばらく帰ってこなかった。そのあいだぼくはおとなりのおばさんのお家に預けられた。
 病院からお電話がきて、ぼくはおばさんといっしょにママをむかえにいった。ママはげんきかな、だいじょうぶかな。お病気とかになってないかな。はやくママに会いたくて、おばさんをせかした。おばさんはすごく痛そうな顔をして、ゆっくりゆっくり行こうねってぼくにいった。


 病院から帰ってきたママは、さいしょはすごくふつうに見えた。でもだんだんおかしくなった。
 ママはいつも×××をさがしてた。はじめの方はにこにこしてどこに行ったのかなっていってたけど、じぶんのかみのけを抜いたり、うでとかてくびとかをがりがりかいていっぱい血を出したり、かべとかゆかとかを引っかいたり。
 ママのお顔もどんどん怖くなっていった。目のまわりとかがぐりぐりまっ黒になってへこんで、ほっぺたもやせちゃってまっ白。まるでヨマワルのお面みたいだった。
 ×××がいなくなってぼくもすっごくさびしかったけど、ママの方がもっと大変だって思った。

 ぼくは人間の言葉がしゃべれないけど、ママにもう×××はいないんだよっていっしょうけんめい伝えた。結局伝わらなかったけど…。

 おかしいままのママにもとに戻ってほしくて、ぼくは×××に化けてみたんだ。
 そうしたらママはすごくうれしそうに笑って、ぼくにおかえり×××っていったんだ。心配したのよって。もうどこにも行かないでって。


 ぼくはもうだめだなって思ったんだ。
 ママはこんなまがい物でもほしがるようになっちゃったんだ。
 でももういいやって思った。
 ぼくがちょっと痛いのとさびしいのと悲しいのをがまんすれば元通りのママが帰ってくるんだ。



 痛い痛いって泣き出す心にふたをして、ぼくはあの日から×××になった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -