俺の気のせい…だったらよかった。
むしろ、ずっとそうだと思っていた…思っていたかった。
もしかしたら、いや、きっと俺は…。

「なぁ」

「…………」

「おい、」

「…………」

「翔!!」

俺の前方を歩いていた翔がゆっくりとこちらを振り向く。
小動物を思わせる大きな瞳にちょこんと乗った丸いメガネが特徴的。
水色の髪は癖毛なのかいつ見ても好き勝手に跳ねている。

人の外見をとやかく言うのはあまり良くないが、この童顔、この身長で俺と同い年だというのだから世界は広い。

「あれ、三沢くん居たんだ。いつの間に?」

人の良さそうな笑顔、男にしては高めの可愛らしい声…から放たれた凶器のような言葉にグサグサと刺さるものを感じる。
辛辣な物言いなのにまったく悪意が感じられない。
言われる度に俺の影が薄く、存在感がないのではと錯覚させられる。
平たく言えば、心が折れそうになる。

「君がレッド寮を出たのを見かけてからずっと声をかけていたんだが…」

「えっ?またまたぁ〜」

ほら、こんなうっそだーと言わんばかりのリアクション。
こっちの方が嘘だと思いたい。

「なぁ翔、俺…君に何かしたか?怒ってるんだったら謝罪を…」

「何言ってるの?変な三沢くん。じゃ、ボク急いでるから」

言葉と共に遠ざかって行く水色頭。明らかにおかしい。
もの悲しい気分になりながら木陰に座り込み手帳の数式に新たな数字を加えていく。

出会った当初はこんな対応されていなかった。
翔はある程度礼儀正しいはずだ。みだりにこんな態度をとったりしないだろう。
以上の数式から導き出す答えは…

「俺は翔に嫌われているんだろうか…」

「恋かな?愛だね!三沢くん!!」

「うわぁっ!?」

俺の目の前に突如現れたのは宙吊りの天上院吹雪さん。
空から降ってきたのかと思いきや器用なことに太めの木の枝に足を引っかけているらしい。

「い、いきなりなんです年長さん」

「んーふふふ、言うじゃないか愛ある所に僕の姿有り!…ってね!」

「い、いや…聞いた事ないです」

端整な顔立ちにバッチリウィンクまで決めてくれている所申し訳ないが、この場から立ち去りたい。
何を考えているかさっっっぱりわからないからこの人は苦手だ。

「禁断の愛とそれに振り回される三沢くん…う〜ん、これも愛だね!胸キュンポイント33点あげちゃおう!」

「なんです禁断の愛って」

やはりついていけない。

「簡単な事さ!三沢くんは翔くんに好かれてるって事だよ」

「…はぁ?」

案の定突拍子もないことを…

「どうやったらアレが好かれてる様に見えるんですか?」

「ふふふ、僕は彼のお兄さんと親友だからね!翔くんの話も常々聞いていたものさ」

カイザーからの情報……吹雪さんには悪いが一気に信用性が上がる。

「亮は言ったね…翔は好きな人ほどいじめるタイプだと!!」

ビシイッと指差し告げる彼の背景にベタフラッシュが見えるようだ。その迫力に思わず息をのんだ…が、
好きな人ほどいじめるタイプ?

「…そんな小学生じゃあるまいし…バカバカしい」

「え?」

「悪いですけど、俺も暇じゃないんで。アドバイスありがとうございました」

適当にお礼を述べその場を足早に立去る。
翔が俺に好意を持っているとは思えないし、好意を持っていたとしても俺も翔も男だし。
そもそも翔が好意を持っているとすればそれは名違いなく遊城十代だろう。
カイザーの名前が出たとはいえ、一瞬納得しかけたのがひどく間抜けに思えてきた。

「…やっぱり、嫌われてるんだろうなぁ……」

頭の中で再計算していた数式の答えはやはり最初から寸分違わず。

「はぁ…」

がっくりと肩を落としながらも寮へ戻ることにした。
今度は嫌われた原因を計算してみないとなぁ…



「あぁ…あんなに落ち込んで…可哀想な三沢くん…」

翔くんに嫌われていると思い込み、立ち去って行く三沢くんの背中は哀愁に満ちていた。

「せっかく僕が翔くんの気持ちを教えてあげようとしていたのに…三沢くんってばキッパリ否定していくんだから…。よし、次こそ…」
「余計なこと、しないで下さいっスよ」

不意に背後から聞こえる声に心臓が飛びあがる。振り向けば、いつからか居たのか翔くんが立っていた。
いや本当にいつから!?
彼の視線の先にはトボトボと歩いて行く三沢くんの姿。

「余計だなんて、失礼な!僕は君たちのLOVEを応援…」

「余計っスよ!だって…」

三沢くんを目で追う翔くんの瞳はうっとりと陶酔した様な色を帯びている。
僕にはわかる。間違いなく恋する瞳だ!愛しいものに対するまなざしだ!
あぁ、翔くん、君は切ない片思いをしているんだね。そして素直になれず冷たい態度を…
いや、片思いをする自分に酔うのも結構だけれどこのままじゃ三沢君が可哀想だ
ここはやっぱりこの僕が翔くんの気持ちを三沢くんに…

「あぁいう顔をしてる三沢くんが一番可愛いんスから」

それじゃあ、と一言告げ、ニコリと真っ黒ホワイトな笑みを浮かべたまま翔くんは行ってしまった。
…しばし呆然としている僕を残して。

あれは次はどうやっていじめてあげようかな、なんて考えている顔だ。
翔くん、君ってやつは…
これから彼に訪れるであろう数々の受難を思い、静かに合唱をする。

「三沢くん…苦労するだろうな…」

誰へともなく呟いた言葉はアカデミアの晴天に吸い込まれるようにして消えていった。








タイトルを考えるのがしぬほど苦手
翔三かわいい。吹雪さんはアカデミアのキューピッド的存在だと思ってます勝手に。







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