赤色微風
ある昼下がりのことだった。
今日はどの娘とティータイムを過ごそうか、なんて考えながら繁華街を見回していた。
特に変わった事なんてない、いつもの景色。
そんな時
視界に飛び込んできた赤。
チューリップでもリンゴでもタコでもないその赤は…
姿を見せたなりボクの腕を掴んで走り出した。
「ちょっ…!?ストップ!ストップ小波!!」
制止の声も虚しく小波が足を止める事はなかった。
すっかり見慣れた赤いキャップに赤いジャケットの彼はボクの方を振り返りもせずにただ前だけを見て真っ直ぐ進む。
ひきずられるようについて行く光景を通行人が見ている気がする。恥ずかしい。女の子が見ていないことを願う。
腕を引かれるまま走らされボクの息が切れる頃、辿り着いたのはキングも御用達という噂のカフェ。
女の子達と飲んだブルーアイズマウンテンコーヒーが美味しいのが記憶に新しい。
でも、そのカフェと今の状況が結びつかない。
「こんなところに何の用があるのさっ…」
肩で息をしながら小波に訪ねれば再び引かれる腕。
…もう走れないぞ!という念を込めて小波を恨みがましく見つめてみた。
…けどどうやら行き先は日当たりの良いカフェのオープンテラスらしい。これ以上走らされる心配はないみたいだ。
小波は紳士的に椅子を引き、ボクを座らせる。そして向かいに座るといつもの調子で一言。
「話してよ」
小波はいつもこうだ。
一方的にこっちに話をさせて、それに的確な返事を返す。
話すことが尽きればさっさと何処かへ行ってしまう。
おかげで小波はすでにボク自信よりも田中康彦という人物についてに詳しいだろう。
でも、こっちは小波についてあまりに知らなさすぎる。
例えばだ、好きな食べ物であったり、好きな色であったり、
…好きな、タイプであったり。
たまには、こちらから話を聞く、というのもいいだろう。
目深にかぶっている帽子を覗き込むようにして言葉を切り出してみる。
「小波、君はどんな子がタイプなんだい?」
ボクのいきなりの質問に小波は虚をつかれたような表情を見せる。きょとんとした顔、珍しい。
というか、どうしてボクはそんなことを真っ先に訪ねてしまったんだろう。
知りたい事なんて、もっと沢山あるはずなのに。
しばらく小首をかしげて考え込んだ小波がやっと口を開こうとした時、
「お待たせいたしましたー!!」
耳に飛び込んできたのは小波の声じゃなく、空気を全く読まないウエイトレスの声。
「季節の…キラートマトジュースです!!」
ミーと小波の間にコトリ、と置かれる二つのグラス。
赤い液体がなみなみと注がれている。
丁度、走らされて喉がカラカラだったからありがたくグラスを手に取る。
小波も同じ様に赤いジュースを喉に流し込んでいる。
爽やかな酸味に程良い甘さ……うん。美味しい…
自然と顔が綻ぶ。
グラスが空になったところで小波が口を開いた。
「君には俺がいるだろう!」
凛とした声で告げられたその台詞。
さっきの質問に対する答えとしては多少チグハグな気もする…けど、
「そっ…そうかい…」
こんなに胸がときめいてしまうのは何故なんだろう。
勿論ボクは女の子が好きだ。
むさ苦しい男共なんてこちらから願い下げするくらい嫌いだ。
だがしかし、どういうことだろう…目の前にいる小波はまごうことなく、正真正銘男。
実は女の子なんてドッキドキの展開もありえない。
(寝起き突撃の時にバッチリ見てしまったし)
……不思議な人だなぁと、つくづく思う。
カフェについてから数十分はたっただろうか。
話すことも尽きた。
今日も小波はフラーっと別の人のもとへ向かってしまうんだろう。
「………」
小波は席を立つことなくただミーを見ている。帽子の影になって視線が伺えないけれど、見られている。確実に。
さらに、無言。
どうしたんだろう?気まずくなり、声をかける。
「小波?」
「田中くん、どうしてあんなこと聞いたの」
あんなこと、というと恐らく最初に話した好きなタイプの話…?
「え、と…」
はぐらかす言葉を選ぼうとして、やめる
たまにはボク自信の、そのままの言葉のほうがいいだろう。
それに、小波に取り繕った嘘を言っても見透かされてしまう気がする。
「小波はミー…ボクことよく知ってるけれど、ボクは小波のことよく知らないからね…」
「そっか…」
軽く浅い返事。
小波がなにを思っているのかボクにはわからない。
言ってからなんだか気恥ずかしくなってしまった。
とりあえず、下を向いて考え込んでいる小波の思考がまとまるのを待つ。
「それってさ、……俺の事をもっと知りたいって事だよね」
まとまったのか小波が顔を上げながら問いかける。
確かに、そういうことになるのかな?
「そうだね…うん」
端から聞くと口説き文句のようだね、と自笑すると掴まれる襟元、引き寄せられる体、
耳元に寄せられる小波の口。
「俺のことを知るのって、大変だから…」
覚悟してね
囁かれた箇所からゾクリとした震えがはしる。
それに呼応するように顔に熱が集まる感覚。そのままペタンと椅子に座り込む。
「こっ……小波?」
見上げれば実に楽しそうな笑みを浮かべた小波が手をさしのべている。
「それじゃ、パートナーになってよ、康彦」
ボクも真っ青な、そんな台詞。
苦笑しつつもその手をしっかりと握ってしまったボクはやっぱりおかしいのかもしれない。
だからタイトルを考えるのが苦手だとあれほどry
小波くん、田中くん攻略に踏み込むの巻。
田中くん男嫌い攻略は見送ってたけど本人からこんな事言われちゃった日にはもう…っていう小波くん
我が家の小波くんはここぞというタイミングで名前呼び捨てにシフトチェンジします。そうですタラシです。
そして、田中くんは思考の中では素で一人称もボクっていうマイ設定
だって留学したことある三田川くんならともかく田中くんミーって無理しすぎ