昼間とは打って変わって静まりかえった放課後の教室は夕陽が射し込んでほんのりとオレンジ色で、
そこに佇むあの人の赤茶色の髪は光に明るく染まっています。
「…どうかしたかい?」
教室の外から見つめる僕に気が付いたのか、先生がこちらを見ています。
少しばかりの逆光で見えづらいけれど柔らかな笑みを浮かべています。いつもの様子、声色から想像したとおりです。
オレンジ色の空間に閉じ込められた先生は、僕には一枚の絵の様に見えていました。
「綺麗ですよね…」
主語のない僕の言葉を聞いた先生は窓の外へと視線を移します。
今の言葉が夕日に向かってのものだと思ったんでしょう。眩しそうに目を細めています。
残念ながら貴方に向けた言葉だなんてちっとも気付いてくれていないみたいです。
「そうだね、見事な夕陽だ」
委員長は意外とロマンチストなんだね、なんて言いながら先生がこちらへ歩み寄ってきてくれています。
暗い廊下に佇む僕に一歩近付くごとにあれほど鮮やかだったオレンジ色が薄まっていきます。
その代わりに僕の瞳には先生がハッキリと鮮明にうつります。
目の前に立たれるといよいよ光はすべて遮られ、
なんだ、夕陽なんてなくてもやっぱり、
「綺麗です」
にっこりと微笑みかけると鈍感な先生はやっぱり気が付いていない様子で笑い返してくれます。
それだけでも十分満たされた気持ちになりますが、その時の僕はやや貪欲だったようで
「先生が、綺麗です」
先生のネクタイを些か乱暴に引っ張った僕は、少し意地悪げな顔をしていたと思います。
証拠に目の前の自分よりずっと大人な先生の顔が紅潮していきます。
その様子はまるで、先ほどまの夕陽に染まった教室のようで、
「い、委員、長?」
「やっぱり、綺麗です」
その言葉が言い終わるやいなや、何かを言いかけた先生の唇を自分のそれで塞ぎました。
ちらりと窺った教室は既に日が落ちたようでした
とど→うきょ。「トドのつまり」をつかわないで委員長らしくできるか挑戦。