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「それ、どういうこと?チェンバレン家の養女なの?」
「養女だけど、血のつながりがあるわ。あたしはママの兄夫婦と養子縁組してるの。伯父さま夫婦には子どもが出来なかったから」


こんな事情を人に明かすなんてどうかしている。
それもポッターに。
同じ寮の友だちも、ドラコすら知らないチェンバレン家の秘密なのに。


でもむしろ、スリザリン寮の友人たちには話せなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
養女だと明かせば、いくら父親が純血の魔法使いだと言っても信じてもらえるかは微妙だ。
血にこだわりがある人が大勢いる。
ただ、ポッターがあたしを気の毒そうに見ているのにはうんざりする。


「…あなたみたいに虐待されながら育ったわけじゃないわ。あたしは、お姫さまみたいに大事に大事に育てられたのよ」
「だろうね。きみとマルフォイ、同じ匂いがするよ」
「やめてよ、あたしの両親はルシウス・マルフォイなんかとは違う――」


口を滑らせたと思った。
ポッターは目を見開いている。


「マルフォイの父親のこと、嫌いなの?」
「…言いたくない」


端的に言って、ドラコの父親のことは好かない。
死喰い人だからだ。
闇の帝王の馬鹿げた考えの支持者で、ドラコがマグル生まれのグレンジャーを馬鹿にするのは彼の影響だ。
ポッターの驚き続ける視線に耐えきれなくもなり、吐き出したくもなった。


「…パパは闇の帝王に一矢報いようとして死んだの」
「お父さんが?」
「純血一家の出だった。パパの家もママの家もガチガチの純血思想。パパは闇の帝王の考え方が馬鹿だって思い始めた。だけど家族の立場を考えて、黙って死んだの」


養父母も、寮友たちも大好きだ。
だけれど彼らは根っこの部分で信用ならないというのがここ半年で随分わかってしまった。
誰にも吐き出せずに、鬱々とした気分で過ごす日々は地獄のようだった。


「でも、きみはスリザリンじゃないか」
「だってパパもママもそうだったって聞いたんだもの!マグルやマグル生まれのこと馬鹿にしたくて入ったんじゃないわよ!」


怒りに声がひっくり返る。
あたしは確かに怒った顔をしているはずなのに、ポッターはそんなあたしの顔を見て柔らかく笑った。


「エミリーのことは、最初に見たときから無表情な女の子だなあって思ってた」
「…馴れ馴れしくファーストネームで呼ばないでよ」
「だって、チェンバレン家の養女なんでしょ?本当のファミリーネームがわからない」


正論めいたことを言われて、むっつり黙るとポッターは楽しそうに続けた。


「マルフォイが僕のことからかうとき、エミリーは他のとりまきと違って馬鹿笑いしてない。ずーっと見てると、他のスリザリン生と話してるときは確かに笑ってるし、遠目で見てるとロンに怒ったりもしてる」


観察していたと言われるとむずがゆくなる。
ため息を吐き出して、あたしは思っていたことを言うことにした。


「…あんたのこと視界に入れる価値すらないと思ってるの。こんなとこで会わなきゃ無視してるわよ」
「ハーマイオニーがね、エミリーだけは、魔法薬学のとき、材料を手渡ししてくれるって言ってるよ。スリザリン生はマグル生まれだなんだってハーマイオニーに触れようともしないのに」
「グレンジャーは別に感染症にかかってるわけじゃないわ」


そうだ。
マグルだって、マグル生まれだって、まったく汚いと思わせるような存在じゃない。
そりゃ、中世で馬鹿げたことはしてきただろうけど。
そのせいで、魔法族はマグルに見つからないよう、隠れるように暮らしてきたけど。


「きみのお父さんは立派な人だったんだね」
「そうよ」


いきなりパパの話題に立ち返って、そう言ったポッターにあたしは胸を張る。
空を見上げると美しい星たちが瞬いていた。
やばい、涙が――。


「ヴォルデモートの全盛期に、あいつを挫こうとするのはそう出来ることじゃない」
「そうよ、あたしのパパだって、英雄なのよ!人殺しが怖くなって逃げ出した卑怯者なんかじゃない…!」


パパは不遇だった。
だって、マグルは軽蔑するべき生き物だと教えられて育ったのに、それが間違いだったってちゃんと気付いたときには、もうどうしようもないところまできてたのよ?
家族が闇の帝王の配下として、奥深いところまで取りこまれてた。
パパがその道を正すため、黙って死ぬしかなかったのを、逃げた負け犬だと嘲った奴らを、あたしは絶対許さない。


「泣かないで」


いつの間にかこぼれおちていたあたしの涙を、ポッターが優しく拭った。
なにを言うでもなくポッターを見つめていると、そのライトグリーンの瞳が段々近付いてきて――。
降ってきた唇への感触と、耳に残る、軽いリップノイズ。
なにが起きたかぼんやりした頭が答えを導き出した瞬間。


「ぎゃー!」


あたしはポッターを突き飛ばした。


「な、なにす…」
「つい」


転がって小さく笑ったポッターに一発蹴りを入れてあたしは駆けだした。


(つい、じゃねーよ!キスするなんて、キスするなんて…、ぎゃー!)




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