--2 「今からスリザリンに戻るのは得策じゃないよ。一分前に門限が過ぎた。すぐ下でフィルチが見回りしてる」 「あんたはフィルチに見つからずに上がって来たってわけ?」 「僕には特別な方法があるんだ。それに足も遅くない。フィルチに見つかっても八階のグリフィンドールはすぐそこだ。でもスリザリン寮は――」 そこまで言ってポッターは目配せした。 確かに、管理人は壮年とは言え足が早い。 彼が何度かウィーズリーの双子兄弟を追い回しているのを見たことがある。 とっ捕まる危険を冒してまで地下にある寮に戻るあたしじゃない。 あの寮の最近の雰囲気が嫌で抜け出してきたんだから。 掴まれた手を振り払って壁際に近付いて、腰をおろして背中を預ける。 すぐ隣にすとんと腰かけたポッターから身をよじって、あたしは間隔を開けた。 はあ、ため息が出る。 「せっかくのハロウィーンなのに。たいした御馳走もなし。あのカエル女のせいで…」 「確かにね」 二人して暗くなり始めた空を見上げた。 ポッターに同意されてはたと気付く。 あたしの憂鬱の原因は、なにもアンブリッジだけじゃない。 となりのこいつもだ。 「こんな日は盛大にはしゃぎたいのに」 自分の気持ちを代弁されて、びっくりしてポッターを見ると彼は弱弱しく笑った。 「…両親の命日なんだ」 「…そう」 立場は違えど、ポッターとあたしの間にはいくつか共通点があるらしい。 両親とももうこの世にいない。 親が闇の帝王に抗って死んだ。 あたしの母親とポッターの両親の命日が近しく、ハロウィーンの晩餐が少なからずその憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれてきた。 「チェンバレンのご両親は元気?」 「なに?」 いきなり降って湧いた話題に眉をひそめると、ポッターが笑った。 「いや、大事な一人娘が寒空の下、寮から抜け出しているのを知ったらどんな気分だろうと、ね」 ウィーズリー伝いに、あたしがチェンバレン家の一人娘だと知っているのだろう。 チェンバレンはママの生家で、あたしは表向き、ママの実の兄夫婦の娘ということになっている。 伯父さま夫婦には子どもが出来ず、ママはあたしの父親がパパだとバレるのを恐れたからだ。 「…娘の心配はもう出来ないわ。パパもママもあっちにいるの」 人差し指で空を指さすあたしを、ポッターが驚いてみた。 (どうしてこんな話をするのか?秋の夜長に感傷的な気分になったのよ) ← | top | → |