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「な、なに!?」
「染みになる前にどうにかしなきゃ」


ポッターの突飛な行動に驚きすぎてほとんど黙ったまま会場を連れ出されたあたしは、周囲が静かになってようやくポッターに制止をかけた。
足を踏ん張って止まらせようとするけど、ポッターに比べると非力なあたしがいくら頑張ったところで引きずられて歩く結果は変わらない。


「別にあんたにどうこうしてもらわなくったって…!」
「ここでいいかな」


あたしの言葉をまるっと無視して、ポッターは空き教室の扉を開いた。
ポッターに押し込まれるようにして教室に入る。


「チェンバレン、脱いで」
「な、なに言ってんのよ!四、五歳の子どもじゃないのよ!」
「あ、そっか。女の子だった。じゃあそのまま」


あたしが怒鳴るのも気にせず、にこりと笑うポッターはなんだか怖い。
ポッターがあたしの足元にひざまずき、杖を振るう。
手慣れた動作で染み抜きするポッターを唖然として見ていると、ポッターはあたしを見上げてにこりと笑った。


「小さい頃から家事ばかりさせられてたんだ。マグル式でも染み抜きの原理は変わらないからね」


そうポッターが言うのを聞いて、あたしは初めて思い至った。
両親の死後、マグルの親戚の家に預けられたというポッターは、もうほとんど虐待のような形で扱われて来たのだろう。
入学当時の発育不良の体を思い出し、ポッターの発言を合わせて考えるとそれが自然だ。


「終わったよ」


ドレスは染みひとつなく元通りになった。
立ち上がったポッターにお礼を言うべきか悩んで、結局あたしは口を利かなかった。
もとはと言えば彼のせいだ。
頼んですらいないし。
ポッターがあたしを見下ろしているのが分かって居心地がかなり悪く、しきりに扉に目線をやる。
早く解放されたい。
これなら会場で壁の花に徹しているほうがまだマシだ。
ポッターもパートナーが会場で待っているはずだ。
そう言えばポッターを呼びに来たのはウィーズリーだったけど。
扉とあたしの間にポッターが立ちはだかっている。
あたし、なんで杖を持ってこなかったんだろう。
ガーターベルトに仕込んでくればよかった。


「チェンバレン、いつも僕を見てるよね」
「は、ぁ?」


そわそわと扉を見つめるあたしにポッターが突然、にこやかに言った。

「授業中や大広間で。気付いてないと思った?」
「好きで見てるんじゃないわよ!」


視線が絡んだことはない。
気付かれてるなんて思いもしなかった。
取り繕うことも出来ずに焦って言うとポッターは笑みを深くした。


「そんなに焦ってるところ見るの初めてだ。こんな風に話すのも初めてだけど。おどおどして可愛い」


目が点になるというのはこういうときのための言葉だろう。
思いもよらないポッターの言葉に頭がフリーズする。


「折角すごく可愛いかったのに、どうしてチェンバレンのパートナーはきみを置いていったの?」
「知らないよ…」


人のことをこんなに怖いと思ったのは初めてだ。
トーンダウンして弱々しく返すと、ポッターがずいっと寄ってきた。
なに!?


「マルフォイのパートナーになるんだと思ってた。違ったなら誘えばよかったかな」
「絶対お断りよ」
「そう?」


余裕があるのか、ポッターはあたしの棘のある言葉にも口の端を上げる。
ただ、嫌味な笑顔じゃない。


「なんか可哀想になってきたかな。会場に戻ろうか」


またにこりと笑って、ポッターはあたしを出口に促した。
よかった、やっとこの気詰まりな空間から解放される。


「じゃあチェンバレン、いいクリスマスを」


会場の入り口で、ポッターはにこやかに言って人ごみに紛れた。
可愛いだのなんだの、普段言われ慣れない言葉にどっと疲れた。


間違いない。
からかわれたんだ。
あたしが、あの大嫌いなハリー・ポッターに。

だけど、頬が熱い気がするのはなぜだろう。
あんな風に、笑いかけられる日が来るなんて思いもしなかった。



(Happy Birthday Harry Potter!)





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