--2 「だいたい、なんだってみんなポッターをちやほやするんだ?ちょっと課題が上手くいったくらいで、手のひら返したみたいに!」 「ドラコのゆーとーりよ」 「エミリーはいつも僕の話を真面目に聞かない!」 空き教室でドラコがぐちぐち言うのを、窓の外を見ながら適当に相槌を打つ。 ドラコは最近、ポッターへの愚痴をあたしだけに聞かせる。 ポッターが調子が悪いときは談話室で笑いの種にするけど。 きっと、大っぴらにぐちぐち言うのは負け犬の遠吠えに等しいことに気がついたのだろう。 天より高いプライドも、気を許す幼馴染の前ではなくなってしまうのか、それともあたしをゴミ箱扱いしているのか。 男の子と女の子が別行動することが多くなった最近では、ドラコとはポッターの話しかしてない気がする。 「ドラコ、気にするから気になるのよ。あんなの、視界に入れる価値すらないわ」 「だって目障りなんだ!」 「あー、そうね。あたしは今、耳障りだけど」 あたしは、きっとドラコが思う以上にポッターが気に食わない。 ドラコがポッターに抱く感情とは少し種類が違う。 それが理解できないらしい幼馴染はきょとんとした顔をした。 一緒に悪口を言ってあげればドラコの癇癪は収まるだろうけど、あたしはポッターの話題を口に出すことすら嫌だ。 食事の為に大広間に向かい、ドラコと別れて女の子の集団の中に入り込む。 大広間でも女の子たちの視線の先には、やっぱりポッターがいて、近々行われるクリスマスパーティーのパートナーにポッターを望む女の子が多いのが一目で分かった。 我がスリザリンにおいてはそんな女の子は少数派。 だけど、いるにはいる。 大っぴらにはしゃいだり色目を使うようなことはないけれど。 あたしがちらりとポッターを見ても視線が絡むことはない。 ポッターの額の稲妻型の傷跡を見て、あたしは手元に視線を戻した。 英雄だ? 笑わせる。 闇の帝王が失墜したあの晩、本当のところなにがあったかを知るものは一人としていないのだ。 ポッターの両親が命懸けで闇の帝王を仕留め、ポッターはたまたま運良く生き残っただけなんじゃないのか。 一歳の赤ん坊が百戦錬磨の闇の魔術の使い手を打ち破ったと考える方が不自然だ。 あたしが産まれるのを待たずに死んだ、あたしのパパは死喰い人だった。 あたしだって純血思想がちょっと頭の悪い考え方だって分かってる。 パパもそうだった。 だから、パパは闇の帝王に抗う為に、彼の生の根幹を成すものを壊すために死んだ。 パパはそれを唯一ママにだけ打ち明けた。 そのママに聞いたあたしとの二人だけが、パパの死の真実を知ってる。 パパはとても頭が良くて優しい人だったらしい。 パパの実家はみんな闇の勢力に加担していて、純血主義を貫く家庭だったから、パパは家族を不利な立場に追い込まないために表向き『人を殺したりするのが怖くなって逃げ出した臆病者』ってことになっているらしい。 不名誉な人生だったと思う。 パパの両親すら、息子がなんのために死んだのか知らないのだ。 それでも、パパの信念だと思えば、ママは誰にも話すことが出来なかったらしい。 パパを失って、憔悴したママはもういない。 逝ってしまった。 パパの隣に。 あたしのパパだって、立派な英雄だったのに。 (それがあたしが、『英雄』を嫌う理由) ← | top | → |