--3 僕が選ばれし者と呼ばれるようになって随分経つ。 誰が違うと言おうと、僕にはマルフォイが怪しいということがわかっていた。 忍びの地図で彼の動向を観察するのが最近の日課だ。 とある廊下に動く点が二つある。 マルフォイとエミリーが連れ立って歩いている。 連れ立って、というのは適切ではない表現かもしれない。 足跡が示すに、エミリーはマルフォイを追いかけるように少し後ろから彼を追っている。 透明マントを着こんで向かった廊下に、すでにマルフォイの姿はなかった。 エミリーがうずくまって泣いている。 びっくりして、僕はしゃがみこんでエミリーの肩を掴んだ。 「…ポッター…」 エミリーは涙がたまった瞳で僕を見上げた。 思わず抱きしめると、エミリーはいっそう激しく泣く。 「なにがあった?マルフォイはどこにいったんだ?」 「わからない…。全然」 エミリーの震える手が僕の背中に回る。 「最近ドラコ、塞ぎこんでこそこそしてたの。なにしてるのか聞いたけど、教えてくれなかった…。掴んだ腕も振り払われて――。小さいころからずっと一緒にいたのに、あたしの大事な幼馴染だったのに…!」 すすり泣きが響く廊下で、僕とエミリーは随分長い時間抱きしめあっていた。 * 「マルフォイは本当になにをしてるんだ…」 ようやく涙が枯れたようなエミリーを横目で見て、ため息をつく。 エミリーはマルフォイにとって特別な女の子だったはずじゃないか。 それをこんなに悲しませるとは、良心の呵責はないのだろうか。 「…ポッター、ドラコのこと探ってるの…?」 「僕に言わせても最近のあいつは変だからね」 エミリーは目を伏せ、額をこぶしでおさえた。 「…ドラコは父親の跡でも継ぎたいのかもしれない。デスイーターになりたいのよ。伯父は詳しいことは話さなかったけど、ドラコは闇の帝王からなにか指令を下されてるみたい」 「それ、僕に言っていいの?伯父さんが――ミスター・チェンバレンがデスイーターだって暴露したことになるよ」 「現行犯でもない限り伯父はアズカバンには入らない。狡猾な人だし権力があるの。魔法省はあんたより伯父を信用する」 エミリーは最後に皮肉っぽく笑った。 「アズカバンに入ってくれるならそのほうがいいかもしれない。伯父は闇の帝王の腹心なのよ」 その言葉に絶望的な色を見て、僕はいっそうエミリーが可哀相になった。 はやく休ませてあげたい。 心の休息にはならずとも、なにも考えずに眠れるなら寝させてあげたい。 そう、心から思う。 「エミリー、寮まで送るよ。今日のところはゆっくり休むんだ。いいね?」 「…うん」 エミリーは小さな女の子のように頷いて、手を引かれるまま僕の後ろについて階段を下った。 ← | top | → |