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僕が選ばれし者と呼ばれるようになって随分経つ。
誰が違うと言おうと、僕にはマルフォイが怪しいということがわかっていた。
忍びの地図で彼の動向を観察するのが最近の日課だ。


とある廊下に動く点が二つある。
マルフォイとエミリーが連れ立って歩いている。
連れ立って、というのは適切ではない表現かもしれない。
足跡が示すに、エミリーはマルフォイを追いかけるように少し後ろから彼を追っている。
透明マントを着こんで向かった廊下に、すでにマルフォイの姿はなかった。
エミリーがうずくまって泣いている。
びっくりして、僕はしゃがみこんでエミリーの肩を掴んだ。


「…ポッター…」


エミリーは涙がたまった瞳で僕を見上げた。
思わず抱きしめると、エミリーはいっそう激しく泣く。


「なにがあった?マルフォイはどこにいったんだ?」
「わからない…。全然」


エミリーの震える手が僕の背中に回る。


「最近ドラコ、塞ぎこんでこそこそしてたの。なにしてるのか聞いたけど、教えてくれなかった…。掴んだ腕も振り払われて――。小さいころからずっと一緒にいたのに、あたしの大事な幼馴染だったのに…!」


すすり泣きが響く廊下で、僕とエミリーは随分長い時間抱きしめあっていた。



*



「マルフォイは本当になにをしてるんだ…」


ようやく涙が枯れたようなエミリーを横目で見て、ため息をつく。
エミリーはマルフォイにとって特別な女の子だったはずじゃないか。
それをこんなに悲しませるとは、良心の呵責はないのだろうか。


「…ポッター、ドラコのこと探ってるの…?」
「僕に言わせても最近のあいつは変だからね」


エミリーは目を伏せ、額をこぶしでおさえた。


「…ドラコは父親の跡でも継ぎたいのかもしれない。デスイーターになりたいのよ。伯父は詳しいことは話さなかったけど、ドラコは闇の帝王からなにか指令を下されてるみたい」
「それ、僕に言っていいの?伯父さんが――ミスター・チェンバレンがデスイーターだって暴露したことになるよ」
「現行犯でもない限り伯父はアズカバンには入らない。狡猾な人だし権力があるの。魔法省はあんたより伯父を信用する」


エミリーは最後に皮肉っぽく笑った。


「アズカバンに入ってくれるならそのほうがいいかもしれない。伯父は闇の帝王の腹心なのよ」


その言葉に絶望的な色を見て、僕はいっそうエミリーが可哀相になった。
はやく休ませてあげたい。
心の休息にはならずとも、なにも考えずに眠れるなら寝させてあげたい。
そう、心から思う。


「エミリー、寮まで送るよ。今日のところはゆっくり休むんだ。いいね?」
「…うん」


エミリーは小さな女の子のように頷いて、手を引かれるまま僕の後ろについて階段を下った。




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