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玄関ホールを女の子が走っている。
スリザリンカラーのローブに、きっちりしめたネクタイ。
綺麗な顔の彼女はある程度まで走って、足音を潜めてある男子生徒の背後にぴったり着くと、彼の背中を両手で思いっきり押した。
無様に転がった男子生徒の名はドラコ・マルフォイ。
そしていたずらが成功したにこにこ顔でマルフォイを見下ろしている女の子がエミリー・チェンバレンだ。


僕は怒鳴り散らすマルフォイとけたけた笑いながら逃げていくチェンバレンを呆けて見ていた。



*



「エミリー・チェンバレンが笑ってるのはじめて見たよ」


第一の課題を控え、僕はハーマイオニーと図書館に来ている。
ドラゴンを出し抜く方法探しを手伝ってくれるハーマイオニーをありがたく思いながら僕は今しがた見た光景を思い出し首をひねった。
僕の知る限り、チェンバレンは感情が死んでしまったかのような無表情でマルフォイの背後に佇む女の子だった。
ロン曰く、チェンバレンはマルフォイの幼馴染で鼻持ちならない性格をしているのだという。


「よく笑ってる子じゃない。マルフォイをからかって笑ってることが多いけど、マルフォイも満更じゃないみたい」
「いつもああいういたずらをしかけてるってこと?」


驚いて問う僕を見て、ハーマイオニーは頷いた。


「足引っ掛けて転ばせてるところを見たことがあるわ」
「それ、どっちがどっちに?」
「もちろん、チェンバレンがマルフォイを転ばせたの」


僕が口を開けて黙り込んだのが面白かったのか、ハーマイオニーはくすくす笑っている。


「あのプライドの高いマルフォイがそんなことされても気を許してるみたいだから、マルフォイにとってチェンバレンは特別な存在なのかもしれないわね。さ、作業に戻りましょ」


(エミリー・チェンバレンはマルフォイにとって特別な女の子?)


あいつのそんな話には違和感しかない。



*



第一の課題が終わった。


「ハリー!飯行こうぜ!」


防衛術の教室から出てすぐ、シェーマスやディーンがにこにこ駆け寄ってきた。
ドラゴンをどうにか出し抜いた僕のそばにはグリフィンドールの同級生が戻ってきている。


(現金なもんだよね)


ハーマイオニー以外は僕を遠目にひそひそやってたっていうのに。
それでもまた周囲が騒がしくなったのは嬉しくないとは言えないことだから、僕は不満顔を引っ込め笑顔で大広間に足を向けた。


「おいポッター!」


もう聞きなれてしまった意地悪声にそう呼ばれて、うんざり振り返ると立っていたのは案の定マルフォイだった。
手に古い新聞を持っている。


(ああ…)


リータ・スキーターの書いたインタビュー記事が載っている新聞に違いなかった。
未だに一ヶ月も前に発行された新聞を持ち歩いていることには、なにかとてつもない執念のようなものを感じざるを得ない。


「天国から見守ってくれてるとかいう両親に報告は済んだか?また泣いたんじゃないか?横にいる穢れた血に慰めてもらったか?」


マルフォイはハーマイオニーのことも嘲笑で見た。
ハーマイオニーはむすっとしてマルフォイを睨んでいる。


(まじで、うざいな)


僕らグリフィンドール生が全員で睨みつけているにも関わらず、マルフォイは薄ら笑いをして腕を組んでいる。


(僕がなにしたって言うんだ)


僕とマルフォイの気が合わないのはもう仕方ないことかもしれないが、こいつのハーマイオニーまで槍玉に挙げるやり方は本当に気に食わない。
そのとき唐突に僕はあることを思いついた。


(僕の友だちってだけでマルフォイがハーマイオニーを貶すなら――)


僕にもマルフォイが気を許している幼馴染、エミリー・チェンバレンをからかう権利がある気がする。




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