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「あ、ポッターよ」


ダフネの少し熱の篭った言葉に意識は嫌でも向こうから歩いてくる男の子に向いた。
くしゃくしゃの黒髪はいつも通りぴょんぴょんと跳ねているのになぜか様になっている。
痩せっぽちでとても小さかった入学当時と比べて見違えるほど背が伸びたせいかもしれない。
隣に立つウィーズリーがかなり長身なせいで小柄に見えるが、そのまた隣に立つグレンジャーと比べると頭一つ分は背が高く、スポーツ選手らしい理想的な体格をしている。

ハリー・ポッター。
ホグワーツ、いや、魔法界でもその名を知らぬ者はいない。
彼は『生き残った男の子』、魔法界の英雄だ。


「嫌なもん見ちゃった」


舌を出してそっぽ向くあたしを、ダフネが渋い顔をして見た。


「エミリー、聞こえるわよ」
「いいわよ、聞こえたって。あたしたちスリザリン生でしょ?」
「そうよ、ポッターなんて敵よ」


ダフネがあたしを諌めようとするのを鼻で笑うと、ミリセントがあたしに加勢した。


「ダフネも物好きね。うちの寮にはドラコっていうとっってもかっこいい男の子がいるっていうのに!」
「それは同意しかねる」
「エミリー!」


今度はパンジーが恋する乙女そのものの顔つきでうっとり言うのを聞いて、あたしはまた舌を出した。
パンジーが眉を吊り上げるのが面白くて笑っていると足を思い切り踏まれた。
痛い。

パンジーはずっとドラコに恋をしている。
あたしにとっては、幼馴染のドラコは鼻垂れの泣き虫だった頃からの知り合いでほとんど弟みたいなもんだ。
それをかっこいいと慕うパンジーが理解出来ない。
そりゃ、ちょっとは背も伸びて、男らしくはなったけど。


ダフネ、ミリセント、パンジー、それからあたしエミリー・チェンバレンはスリザリンの四年生だ。
伝統的にグリフィンドールと敵対するあたしたちだけど、最近ダフネはポッターをよく観察している。
口には出さないけどダフネは、きっと、『恋』っていうのをしているんだろう。
相手がポッターじゃなきゃ応援してもよかったのに。


ポッターを特別視するのはなにも生徒だけじゃない。
その筆頭がダンブルドアだけど、最近女の子の関心がポッターに向いているのはひしひしと感じている。
資格がないのにどういうわけか参加することになった三大魔法学校対抗試合でポッターは見事な成績で第一の課題を終えた。
みんながポッターを見る目が百八十度変わり、最近はポッターの周りに人が溢れている。


つまんないなあ。
あのまま、目立ちたがりの自惚れ屋として嫌われ者になればよかったのに。



(魔法界の英雄なんて、そんなの糞食らえ)




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