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校長室に連れ立ってやってきたスリザリン生二人に、ダンブルドアは少しだけ驚いた顔をした。
あたしたちはダンブルドアに知っている全てを話した。
話し終えて一拍置いて、ダンブルドアはゆったり頷く。


「非常に有益な情報じゃった。感謝する、ミスター・マルフォイ、ミス・チェンバレン――」


ダンブルドアがはたと思い立って、あたしに向かって穏やかに笑った。


「いや、ミス・エミリー・ブラック」


ぶあっと、涙がこみ上げた。
なぜだか、そう呼びかけられたことに感動を覚えた。


ダンブルドアはそれからスネイプとポッターを校長室に招いた。
作戦会議だと、ダンブルドアはまた穏やかに笑った。


「最初から決めていたように、セブルス」
「仰せのままに」


ドラコが闇の帝王の腹心と疑っていたスネイプは、ダンブルドアにおもねる二重スパイ、ダンブルドアの懐刀だった。
ドラコがダンブルドア殺害を企てていることは、既にスネイプを通じてダンブルドアの知るところになっていたようだ。
スネイプはナルシッサおばさまと魔法契約を結んでいて、どうあってもダンブルドアは死ぬ運命にあると言う。
むしろ都合がいいとダンブルドアは穏やかに言った。
ダンブルドアの腐ったような腕は、彼に地獄の苦しみを与えているらしい。


「ミスター・マルフォイ。きみには酷かもしれんが」


ダンブルドアが、物事を先まで見透かす聡明な頭脳の持ち主だというのは言うまでもない。
ダンブルドアは闇の陣営の目を欺くため、ドラコにその死の責任を負わせたいのだという。


「その役割、僕がお受けします」


ドラコはきっぱり言った。
清々しいほどだ。
ドラコが請け負った役割は、ダンブルドア殺害の罪を被ること。
実際にダンブルドアを死の淵へ誘う役のスネイプは、ダンブルドア亡き後も学校に残るべき人物だ。
ドラコは殺人犯として汚名を着せられることになる。


「現存するヴォルデモートのホークラックスを全て見つけ出し破壊せよ。魔法界に秩序を取り戻すのじゃ」


威厳あるダンブルドアの言葉に、校長室にいた全員が黙って頷いた。
学生生活最後の一年、あたしたちがホグワーツに戻ることはない。
ドラコは殺人犯として、学校に戻ることは叶わない。
あたしはレギュラス・ブラックの娘として、闇の陣営から逃げなければならない。



*



生徒三人だけで校長室を出たところで、ドラコとポッターは自然と握手をした。
ただ、二人ともギラギラ睨みあっている。


「ポッター、とりあえずは休戦だ。ただエミリーのことは違うぞ」


ドラコが言っていることの意味がわからず眉をひそめるあたしに構わず、ポッターの方も裏のある笑顔を作った。


「ふーん、そういうこと?まあ、いいよ。絶対僕のが上だから」


こいつら、なに言ってるんだろう。
相手の手を握りつぶす勢いで握手し続けるドラコとポッターは、校長室から出てきたスネイプに追い払われてようやく各々寮に戻った。


*



「ウィーズリー!文句あるなら食べなくていい!」


きのこを炒めただけの食事に、ウィーズリーが気に入らなそうに呻いた。
あたしが怒鳴るとドラコもポッターもグレンジャーも、その通りだと言わんばかりに頷いた。
ダンブルドアは亡くなった。
ドラコは悪名高き殺人犯の役割を負った。
そのまま逃亡生活に入ったドラコに、あたしも合流した。
チェンバレン家に戻ることは危険を伴う。
ホークラックス探しの旅に合流したポッターに、ウィーズリーとグレンジャーも着いてきた。
五人でテント暮らしをしながらホークラックスを探す旅は、不思議と鬱々とした雰囲気がなくにぎやかだ。


「うちのドラコすら我慢してんのよ!この、お坊ちゃま育ちで高級羽毛布団でしか寝たことないドラコすら!」


ぱっとドラコの襟首を掴んでウィーズリーに見せる。
ドラコは痩せたし、げっそりしてる。
だけど文句ひとつ言わずにこの旅を続けている。
ヴォルデモート討伐に成功しない限り殺人犯の汚名を着せられたままだというのが、ドラコを駆り立てるのだろう。


「エミリー、僕とウィーズリーを同次元で語るな」
「うるさいな!まずいもんはまずいんだよ!」
「じゃあ魚でも取ってきなさいよ!あたしサーモン食べたい!」


ぱっと杖を振って釣竿を出現させると、ウィーズリーは鼻息荒くそれをぶんどってテントから出ていった。
グレンジャーが苦笑いしている。


「大変ね、グレンジャー。あいつと結婚しようもんなら――」


ぶるっと身震いすると、グレンジャーはくすくす笑った。


「マルフォイほどじゃないと思ってたわ。どうやってあの人の性格矯正したの?あの、エミリー?」


親しげにファーストネームで呼びかけられて、面喰う。
グレンジャーはもじもじした。


「その、チェンバレンの実子ではないのでしょう?」
「そうね。エミリーで結構よ、ハーマイオニー」
「わたし、あなたとは仲良くなれる気がしていたの」


ハーマイオニーがにっこりしたところでドラコが突っ込んできた。


「グレンジャーとあまり仲良くするな、エミリー」
「あんたまだ言ってんの!?」
「違うわエミリー、マルフォイは――」


ドラコにグーパンかましそうになったあたしに、ハーマイオニーがにやにや言った。
ぱっとドラコを見る。


「違う!」
「まだなにも言ってないわよ」


ハーマイオニーのにやにやが伝染したあたしを見て、ドラコが眉をつった。
ただ、顔が真っ赤なので大した威力はない。


「ちょっとやめてよ。僕居心地悪いんだけど」


ポッターがむっつり言って、その場はお開きになった。
ドラコとポッターは張りあうように森へ入っていった。
アルバニアの森だ。
闇の帝王が潜伏していたことがあるという。
あたしとハーマイオニーも連れ立って森へ入った。


収穫を挙げきれず、疲れて帰ってきたテントで、大量の魚料理を前に得意げにしているウィーズリーが待っていた。



End.




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