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「答え出てるじゃない…」
「そうだ、答えは出てる。僕は、やるしかないんだ――」
「だから違うってば!」


悔し泣きに涙をこぼし、足を踏み鳴らしたあたしにドラコが怯んだ。


「…パパの話をしてあげるわ。あたしのパパはね、ブラック家の次男よ」
「シリウス・ブラックの弟か?逃げたって言う――」
「最後まであたしの話を聞きなさい!」


口挟むな!
怒鳴りつけるとドラコは押し黙った。


「パパは、闇の帝王のやろうとしてることがおかしいことだって気付いた。だけどね、裏切れなかったの、闇の陣営に取り込まれている、自分の一族を!」


ドラコの立場が、不思議とパパの生きた道に重なる。


「闇の帝王は殺人で自分の魂を切り分けていくつかの物体に宿し、隠したわ。ホークラックスよ。それが全部壊れない限り、闇の帝王は死なない。パパはその中の一つでも壊すために死んだの!ママだけにそれを伝えて、」


もうほかの誰も知らない、あたしだけが知る、最大の秘密。
初めて打ち明ける相手はドラコになった。


「ドラコは、パパみたいに背負い込んで死ぬことないの。今ならまだ間に合うから…。闇の帝王の全盛期とは違うの。ダンブルドアはきっとドラコを受け入れて助けてくれる!」
「闇の帝王の力はもうほとんど戻ってる…。そのホークラックスがいくつあるかは分からないが、全部を壊しきらない限り闇の帝王が死なないのだとしたら、もう望み薄じゃないか…」
「諦めるの?諦めて、ダンブルドアを殺すの?なにが正しいのか、なにが間違ってるのか、ほんとはわかってるのに?」


ドラコはひどく眉をしかめて額を抑えた。
頭が痛いのだろう。
痛いのは頭だけじゃないのかもしれない。
そうだといい。


「あたしは諦めたくないし、殺されたくない」
「僕がエミリーを殺すって言うのか?馬鹿にするのも大概にしろ!なんでエミリーが殺される心配をするんだ!」
「ドラコが言ったでしょ、闇の帝王はもうほとんど力を取り戻してるって。それならホークラックスの所在が気になりだすころよ。もう隠した場所を見て回ってるかもしれない。そのうちの一つが壊されてることに気付いて下手人を探し出すとき、きっとパパに行き着く…。パパの死は闇側では不審だもの。伯父は闇の帝王の腹心だわ、あたしがレギュラス・ブラックの娘だとバラしてしまう」


闇の帝王はきっとあたしを殺しにやってくる。
パパの死の真相を娘が知っていると見抜かれてしまう。
ただ、そうなら。


「あたしはパパの生き方を誇りたい。娘だからと殺されるなら、それはもう仕方が――」
「仕方なくない!」


ドラコが大声で遮った。


「無理だ…」


なにが?
とは聞けなかった。
ドラコが震える手であたしを抱き寄せる。


「エミリーは、僕の大事な、大事な…!」


幼馴染。


ドラコの胸に痛いほど顔が押しつけられている。
片耳で彼の心臓の鼓動を、もう片方で、頭上でぐずぐずやっているドラコの嗚咽を聞く。


泣き虫ドラコ。


もう十六歳で、大人かと思ってた。
でもやっぱり変わってはいない。
あたしは嬉しくなって思わず微笑んだ。


「やっと、ドラコが帰ってきた…」


この一年で、やたらにパンジーといちゃいちゃしだした。
パンジーの友人としては喜ぶべきだったけど、正直喜べなかった。
ぐいと顔を胸から離して、ドラコの顔を見上げる。


「ほら、泣かないで」


ダンブルドアに会いに行かなきゃ。
予想通り涙に濡れている頬を優しく撫でると、ドラコは屈んであたしの頬にキスをした。
おいおい、そんなことしてる場合か?


「ちょ、」


小さい頃から一緒にいた分、お互いに対する境界は曖昧で、まるで姉弟のようにじゃれあって生きてきた。
学校に入るころには治まったけど。


「まっ」


ドラコは頬へのキスをなかなかやめない。
ちょっと待って、かなりよくない。
この年齢のキスは幼いころとは意味合いが違ってくる。


「ストップストップ!」


ついに唇に触れられて、あたしはドラコの顔を手で押しやった。
ドラコはひどく不満そうにした。
こんなことやってる場合じゃないって!


「…ポッターにもさせただろ?」
「なんで…」


五年生のハロウィーンの晩の出来事を、ドラコは見事に言い当てた。
なんで知ってんの?
あたしは言ってないし、ポッターだって言うわけない。
驚きの表情のあたしに、ドラコはいらいら前髪を払った。


「開心術っていうのを少しかじってね。エミリーは感情がだだ漏れだから本当にわかりやすい」
「なっ」


感情だだ漏れ!?
聞き捨てならずに口を開いたところで、ドラコは膝を折ってあたしと視線を合わせた。


「もう二度と、他の奴にさせるんじゃないぞ。いいか」


膝を折らなきゃ視線が合わないほどの身長差はいつの間に開いていたんだろう。
薄青の瞳がまっすぐあたしを見ている。


こんなに男らしい子だったっけ…?


「はい…」


有無を言わさぬ力強い視線に反論も出来ずに頷くと、ドラコの顔に満面の笑みが広がった。
その顔に見惚れるうちに、ドラコは素早くあたしにキスをして、あたしの手を引いて小部屋の戸を開いた。


「ダンブルドアに会いに行こう。僕らが知っている情報を彼に。確かにダンブルドアは母上のことも匿ってくださるはずだ」


いろいろ吹っ切れすぎたドラコの行動ははやい。
あたしはといえば、ドラコがこんな男の子だったか戸惑い、ただ黙って彼に手を引かれ歩き続けた。
…顔が熱い。




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