番外編 02「あー、くそ…」 二人の寝室に戻って、フレッドは脱いだジャケットを乱雑にベッドに放った。 「…落ち込むなよ」 「俺が落ち込む?ロニーにちょっとつつかれたくらいで?」 片割れの言葉を鼻で笑い、フレッドはベッドに腰掛けた。 ロンはフレッドにとって、自分よりもずっと長いときをユーリと共有している憎たらしい弟である。 『ユーリには――フレッドじゃない、もっと別の誰かが似合うと思う』 その弟の先ほどの言葉は、少々堪えた。 「あいつら、なんで喧嘩したんかねえ」 「知らん」 ジョージの疑問にぷいと顔を背け、フレッドはベッドに寝転び大の字になった。 弟が彼女とぎくしゃくしてしまうほどのなにを言ったのかはわからないが、聞くことははばかられる。 フレッドは兄としてのプライドを守らなければならない。 (一端忘れよ…) マグルの可愛い女の子にマジックが上手いと誉められて、幾分気を取り直したところだ。 そもそも、彼女のいるホグワーツは――遠い。 * 年が明け、英語学習に付き合う体でユーリへ送ったいつも通りの手紙の返事が、来ない。 (なに言ったんだよ、あのくそロニー…) 年末に彼女から手紙が届いた。 自分たちが贈ったクリスマスプレゼントへの感謝の気持ちがつづられた手紙だ。 それなのに。 (つーか、ロンはいつやらかしたんだ?…なんで俺が突然無視されるんだよ) もしかすると、返ってこない返事の理由はロンのこととは関係がないのかもしれない。 彼女にとって自分からの手紙は最愛の母から届くそれの『おまけ』だったと言われても、フレッドは納得する。 ユーリはリーザからの手紙が来ないことに拗ねているのだろうか。 「ロンに聞けば?」 フレッドがかりかりしているのを察してジョージが言ったが。 「ぜってえやだ!」 「…じゃあ、ジニー?」 「聞けるか!」 フレッドはむすっとして、しばらくジョージのことを無視した。 * 「リーザ、来ねえな」 客足が途切れ、少しぼんやりとしていたときにジョージが言った言葉にフレッドは少しぎくりとした。 同じことを考えていたところだ。 彼女は昼下がりのこういう時間に、ふらっと店にやってくるのが常だった。 「しばらくって普通どのくらいだ…?手紙を読んで、返事書くためにちょっとここに寄るだけだろ?」 ジョージは少し青ざめていた。 「二、三週間の話だと思ってたのに。ユーリからも、返事来てないだろ…」 しばらくの沈黙ののち、ジョージがぽつりと言う。 「なんかあったんじゃ」 「よせ、縁起でもない…」 「でも、おかしいだろ…。ユーリに聞いてみたか?」 「ああ。…でも返事が来ない」 フレッドはここ最近の自分の手紙を思い返す。 『リーザから手紙が来ないから拗ねてんのか?俺で我慢しとけって』 『なに怒ってんだよ。俺を無視するとはいい度胸だな、ちびちゃん』 『リーザは任務で忙しいらしいぞ。怒ってたって仕方ないだろ』 もはや英語学習に付き合うという口実は捨てきった文面だ。 しかし、何通も送った手紙の返事はついに来ない。 一番最近送った手紙の内容はこうだ。 『リーザがなんの任務に着いてるか知ってるか。俺らのところに来なくなって随分になるけど』 その手紙の返事すら来ない理由は、ジョージが口にした通り――。 フレッドは頭を振って、最悪の事態の想像を振り切った。 「…大事になってたら、嫌でも情報入ってくるだろ。リーザになんかあったら、騎士団から。ユーリだったら、ロンとかジニーから。でもそんな情報は入ってない。隠されてるとも思わねえ」 フレッドは自分の母親を思い浮かべた。 最近『隠れ穴』で夕食を取ったとき、母親は代わり映えのない穏やかな顔をしていた。 父親もだ。 なにか異常事態が発生しているとしたら、あんなに平然と過ごせているわけがない。 「拗ねてるんだ、あいつ。ママから手紙が来ないから」 「スネイプとホグワーツで過ごす最悪のクリスマス休暇だったもんな」 ジョージは無理矢理に笑った。 自分も同じような表情をしているのだろうと、フレッドは思った。 ← | top | しおりを挟む | → |