番外編 MASSIVE WONDERS*(フレッド視点)01 「フレッド、ジョージ。わたしこれから忙しくなりそうで、しばらくここに手紙を持って来れないの」 リーザはその美しい顔立ちに、うんざりとした表情を浮かべている。 彼女はここ三ヶ月、愛娘への手紙を託すために週に一度はフレッドとジョージの元を訪れていた。 「任務か?」 「そんなところね」 リーザは適当な口調で応じる。 彼女は騎士団のメンバーとして、なんらかの任務に当たっているようだったが――その子細を双子に明かすことはなかった。 「クリスマスも返上で?」 「そうなりそうよ」 リーザは弱々しく笑った。 その顔を見て双子が思い出すのは、彼女の愛娘のことだ。 「ユーリが残念がる」 「でもまあ、そういう事情なら――ユーリのことは『隠れ穴』が引き受けるよ。…母ちゃんの代わりにはならんだろうけど、ちょっと気を紛らわす程度にはなるだろ」 ジョージとフレッドが口々に言うと、リーザは緩く首を振った。 「娘はホグワーツに居残りよ」 「「は?」」 「あのお城は世界一安全な場所だし、娘も休暇中にホグワーツでやりたいことがたくさんあるみたい」 リーザのさらっとした応答に、フレッドがわなわなする。 「あの城で独りぼっちのクリスマスか?」 クリスマス休暇に兄弟たちとホグワーツに居残ったことのあるフレッドは、休暇中にあの城で過ごす生徒がほとんどいないのを知っていた。 リーザは厳めしい声のフレッドにも怯まず、飄々としている。 「休暇中も城に居残る教職員はちらほらいるわよ。ハグリッドもそうだし、マクゴナガルやスネイプなんかも」 「スネイプ!?独りぼっちのほうがまだましだろ!」 フレッドの絶叫には、リーザが身をよじって小さな声で笑っている。 ツボに入ったらしい。 「とにかく、娘はホグワーツで休暇を過ごすわ。娘の意志でもあるからね」 リーザはこの問題について、これ以上口出しさせるつもりはないらしい。 柔らかい口調だったが、それがはっきりとわかる声だ。 「可哀想に…。クリスマスプレゼント贈ってやらなきゃ」 「ええ、そうしてくれると娘も喜ぶわ。…ああ、フレッド」 フレッドをまっすぐ見つめて、リーザは言った。 「わたしの代わりに、あの子に手紙を書いてくれる?…英語学習に役立つわ」 頷くフレッドに微笑んで、ついでにジョージにも同じ視線を向け、リーザは身支度をはじめた。 彼女はいつも長居はしない。 「じゃあまた」 「またなリーザ」 「土産話楽しみにしてるぜ」 振り向きざまにサムズアップして、リーザは軽やかな足取りで消えた。 それは、後になって思えば――双子が目にしたリーザの最後の姿だった。 ← | top | しおりを挟む | → |