番外編
04
「僕はもう、あの子のことは話したくない」


見舞いに向かった医務室で、ロンとハリーの横たわるベッドの間で――わたしはハリーのその告白を聞いた。


「…なにがあったの?」


わたしの問いに、ロンもハリーも答えはしない。
ロンはわたしに背を向けて寝ころんでいるし、ハリーは天井を見つめたまま眉根を寄せ、怒っているとも苦しんでいるとも取れる顔をしていた。


(ユーリの話を聞かなきゃ)


あの三人の間でなにが起こったのか、まったく想像も出来ない。
ユーリは今朝方まで長らく入院していて、ようやく退院したところだったはずだ。
それが――どうして友情が終わってしまったかのようなことになったのだろう。


(終わったりなんかしないわよ、わたしたちは…)


駆け足で寝室に戻ると、彼女は独りぼっちで、ぼんやりとしながら自分のベッドに腰かけていた。


「ユーリ、朝一で退院したって聞いたわ。おめでとう」
「ありがとう」


いつもはにこにこ笑うはずのユーリが、笑わない。
時間はなにも解決してくれていない。
彼女は年明けの重く、暗い雰囲気をまとわせたままだ。


「今から、お見舞いに行く?」


おずおず尋ねると、ユーリは首を横に振り、わたしに『ノー』を突きつける。
寝支度をはじめ、ベッドに入ってそのまま寝てしまいそうな彼女に、思い切って声をかけた。


「喧嘩したって聞いたわ。仲直り出来ないかしら、今すぐじゃなくても…」
「どうして?」


(『どうして』って…)


ユーリの目つきが険しくなる。
わたしは本当に、こんな顔の彼女を知らなかった。
ユーリの雰囲気に気圧されながらも、恐る恐る言う。


「それは――わたしたちが、友だちだから。ねえ、ずっとそうだったわよね?これからもそうでしょう…?」


ユーリは首をゆるく振った。
横にだ。


「わたしは、ロン・ウィーズリーと――ついでにハリー・ポッターとも、友だちでいるのはやめる」


(友だちでいるのを、やめる)


ずっと親友同士だった男の子たちを、彼女は他人行儀にフルネームで呼んだ。


「なにが――なにが原因なの…?」


ユーリは心底嫌そうな冷たい顔でため息をついたあと、わたしをまっすぐ見つめて言った。


「言う気はない。あの屑野郎の話、これ以上続けたくないから」


彼女に不似合いな、とんでもなく乱暴な単語がその唇からこぼれた。
『屑野郎』は誰だろう。
ロンか、ハリーか――先ほどの口ぶりから察するなら、恐らくロンだ。
なにをしたら、ユーリにここまでの言葉を吐かせることになるのか。
わからない。
それに、信じたくない。
彼女はずっと優しくて、天使みたいな女の子で――。


(…わたしの大好きな女の子だったのに)


めまいにふらついたそのままの勢いで、寝室を飛び出す。


*


深夜。
談話室へ続く螺旋階段から、怒鳴り声が響いてきた。
声の主はすぐ察せる。
だって、聞き慣れた声だ。
ユーリ・アシハラがなにかに対して怒りに怒っている。


「あなたは大きい声で『傷ついてる』っていう権利あるよ!ボーイフレンドとそんな終わり方したならね!あの人たちは反省するべき!」


足を踏みならして階段を上がってくる音がする。
天蓋幕が閉じていたってわかる。
部屋に入ってきたのはユーリとラベンダーだ。


(『あの人たち』…)


わたしとロンのことだろう。
ロンとラベンダーの関係が、今日思いも寄らない形で終わった。
ラベンダーはわたしとロンが二人だけで男子寮から出てきたと勘違いした。
わたしたちも、その勘違いを積極的に解こうとはしなかった。
ラベンダーが怒鳴り散らしているのを、ただ黙って聞いていた。
ロンには彼女とのことを自分から終わりに出来るほどの勇気がなかったから。


(ユーリがわたしを怒っている…)


ベッドに横たわったまま目を開けて、わたしは息を詰めていた。
ラベンダーがぐずぐず鼻を鳴らしている音が嫌でも耳に入る。
やがて、全員が寝静まり――寝室に本物の静寂が訪れた。


(…ユーリ、ごめんなさい。わたし、ラベンダーが泣いてても――ちっとも可愛そうだと思えない)


心の中でユーリに謝る。
ユーリにとっては、ラベンダーも大事な友だちだ。
それをここまで傷つけて、しかも反省もしていない。
ユーリがそういう人間を蛇蝎のごとく嫌うだろうというのは、深く考えなくてもわかる。


(ごめん。わたし、ロンの弱虫なところも好きなの…)


わたしはあなたの一番にはなれないし、あなたを一番に選ぶことも出来ない。
わたしたちは終わってしまった。


わたしが、終わらせた。


それをはっきりと察する。



*****
ハーマイオニーがぱったり夢主に話しかけず、フェードアウトする理由はこんなんです。
ハーマイオニーとかハリーは夢主を天使とかだと勘違いしているガチ勢だったので(夢を見すぎていた感じの…)夢主の豹変にはなかなかついていけなかったんですね…
三人組の中ではロンが一番夢主をありのままの女の子として見ていたわけですが、屑野郎呼ばわりで盛大に攻撃されたのは彼ですので心折れちゃってます…

ハーマイオニーはリータ・スキーターのこととか、その他諸々の『夢主が嫌がりそうだな』と思ったあれこれを夢主に嫌われたくないがために隠していたわけですが、聡い女の子なので夢主が自分に隠し事をしていることもうっすら感じていて、なんだか可愛そうです…

でも正直、ロンラベお別れ翌日の泣き腫らしてロンを睨みつけるラベンダーを横目に、面白がりながら「弱虫」なんて言えちゃうハーちゃんこわい…・ω・;




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