番外編 02ある日の夕食の大広間に、リー・ジョーダンとユーリが連れ立って入ってきた。 特筆すべきはリーがユーリの肩を抱いていて、ユーリがリーに向かって控えめの笑顔でなにかを言っていることだろう。 フレッドは二人がグリフィンドール寮席のそばで別れ、リーだけが歩いてやってくるのを見ていた。 「リー、遅かったな」 「ちょっとね」 ジョージが言った。 リーはフレッドが自分たちを見ていたことに気づいていたが、そっけなく返す。 「…ユーリとなんの話だ?」 フレッドは内心を悟られないように、慎重に尋ねたつもりだったが――表情にかすかな苛立ちが現れてしまっていた。 その顔に大満足して、リーは大袈裟に口を開く。 「僕、ユーリのこと好きになっちゃいそうだよ。あんないい子そうそういないって――あ、ジョージその皿こっちに寄越して」 リーが夕食を食べ始めてやっと、フレッドは虚勢を張り友人を鼻で笑った。 「ユーリがお前にひっかかるかよ」 「いや、わからないぞ」 リーはもぐもぐしながら、フレッドとジョージを交互にフォークで指した。 「僕はきみたちとは違って、あと二ヶ月も長くユーリと一緒にいられるし」 その一言で、フレッドはリーの行動原理を察する。 「…お前、『俺たちを引き留める作戦』まだやってたの?」 七年間一緒に過ごした友として、ユーリがリーの好みの女の子でないことをフレッドは断言できる。 外見要素に限った話で言うなら、彼はアンジェリーナ・ジョンソンのような派手顔の美人が好きだ。 呆れ顔のフレッドに、リーはしばらくとぼけていたが。 「…適わないな。なんでそんなすぐ気づくんだ?」 リーが落胆気味に続けた。 「作戦成功してほしかったし、もうちょっときみをからかいたかった」 「やめんか」 フレッドがむすっと言うのを聞いて、リーは肩を竦めたあと、小さく笑ってしまう。 確かに先程、リーがユーリの肩を抱いて大広間へ入ってきたのはフレッドへのアピールだった。 フレッド自身が自覚しているか否かはリーの知るところではないが、フレッドはおそらくユーリに恋をしている。 リーの中で、その『おそらく』は今、確信に変わった。 フレッドの片思いのお相手がユーリでなかったなら、フレッドの『やめんか』は『なにいってんだよ』だったはずだ。 「いい加減よせって。もう決定事項なんだ」 「…はいはい」 「あと、ユーリにちょっかい出すのもやめろよ」 「仰せの通りに」 リーはフレッドの最後の一言に、ぷっと吹き出して笑った。 * 『一緒にいられる時間が長い』。 ベッドに寝転びながら思い出すリーの言葉に、フレッドは不本意ながらも同意せざるを得なかった。 自分たちがホグワーツからいなくなったあと――ユーリの隣に誰かが滑り込む可能性は大いにある。 自分より長い時間を彼女と共有する『誰か』が。 ユーリは性格のいい女の子だし、多くの人間がそれに気付いている。 (…同級生ならよかったな) それなら、あと二年は長く一緒にいられた上に――先輩後輩以上に深く関わり合いを持てたはずだ。 (正直、ロンが羨まし…) 我ながら女々しい。 フレッドは寝返りを打って、自分自身に笑ってしまう。 ← | top | しおりを挟む | → |