番外編
六年生緊急会議*
01
クリスマス休暇が終わり、学校に戻ってきた六年生たちを待ち受けていたのは大きなニュースだ。
魔法族の瞬間移動能力である『姿あらわし』習得に向け、六年生向けの講座が開かれるという。
グリフィンドールの六年生は皆が皆、浮き足だった。
そう、一人を除いて。


*


女の子たちはそこそこ頑張ったのだ。
だが、出会って以来初めて感じた彼女の『構うなオーラ』にやられて、ついに話しかけることが出来ずにグリフィンドール塔に戻ってきている。


「…ハーマイオニー、そういえばパーティーの晩ユーリを置いていかなかった?喧嘩してたんでしょう」


ラベンダーはユーリ・アシハラの機嫌が悪い理由はそれだ、と言わんばかりの断定的な調子でハーマイオニーに言った。
ハーマイオニーはその言葉に眉をひそめて腕を組む。


「あなたたちこそ喧嘩してたんじゃないの?クリスマス休暇の初日、ユーリを起こさないようにこそこそ出ていったの覚えてるわよ」


ハーマイオニーとラベンダーの間で、静かに火花が散ったが――やがて女の子三人は互いに顔を見合わせため息をついた。
不毛だ。
どんよりとした暗い空気が一帯にたちこめている。
そこに登場したのが他の男子集団より一足早く談話室に戻ってきたディーンだった。


「どーした?揃いも揃ってため息ばっか」
「脳天気でほんっと羨ましい」


ディーンは突然パーバティから喧嘩を売られたが、持ち前の包容力で辛抱強く尋ねた。


「お嬢さん方共通のお悩みはなんだろうな?言えよ、なにか手助け出来るかも」


ラベンダーはディーンをちらりと見て、ぼそっとこぼした。


「…ユーリ」
「ユーリ?」


ディーンが訝って呟いたとき、ハリー、ロン、ネビルが談話室に戻ってきて、ディーンたちに近づいてきた。
この場にいない同級生は罰則に向かったシェーマスと、どこぞへ消えたユーリだけで、最近はばらけて行動することが多くなってしまった六年生がここまで集まるのは珍しいことだ。


「ねえ、ユーリどうしちゃったの…?」


唐突に、ネビルがハーマイオニーに向かって言った。
表情は憂いに憂いている。
彼はユーリと一番仲がいい女の子がハーマイオニーだということを確信していて、彼女がなにかを知っているはずだと踏んだのだ。


「ネビル、ユーリがどうしたって?女子も今そんなこと言いながらため息ついてたとこだ」
「気づかなかったの…?呪文学の授業でシェーマスがやらかしたじゃないか」


ディーンの問いかけに応じたネビルは、そこで小さくため息をついて続ける。


「フリットウィックだけじゃなくて、ユーリも巻き込まれてたんだけど…」
「あ、そうなの?パーバティあたりだったらぎゃーぎゃー騒いだだろうから目立っただろうけど――ッ」


パーバティがディーンをばしっとはたいたので、ディーンは攻撃された箇所を撫でながら続ける。


「…ユーリは自分のことは主張しないタイプだから、気付かなかった」


ディーンが同意を求めてハリーとロンに視線を送った。
二人とも、確かにという顔で頷いているが――ネビルと女子の三人は沈み込んでいく。


「…そうなのよ。休暇明けからユーリは――ユーリらしくない…」


ハーマイオニーの暗い声に、ネビルが同じ顔で頷いている。
ディーンやハリー、ロンはいまいち状況を掴みきれていなかった。


「結局ユーリがなに?」


ついにハリーが核心を突いた。
ネビルはもじもじしていたが、言った。


「水かけられて、怖い顔で舌打ちしてた…」


一瞬の沈黙。
ハリーとディーンが次々に声を上げる。


「舌打ち!?」
「ユーリが!?俺、そんなの一度も聞いたことないぞ!」
「もとから機嫌が悪いことなんて滅多にない子だもの…」


パーバティが大きくため息をつきながら言った言葉に、今度はロンが口を開く。


「そんな大問題じゃないだろ。ユーリだって人間だし、機嫌悪いときもあるよ」


その表情は呆れ気味だ。


「みんなユーリを神格化しすぎなんだ。天使かなんかだと勘違いしてないか?」


瞬間、同級生数人から一斉に怖い顔で睨まれて――ロンは少し怯みながらも続けた。


「シェーマスがちゃんと謝れば解決だって。すぐ笑って『気にしないで』って言うよ。そういうやつだろ、ユーリって。ところで――」


同級生全員がロンの意見に納得しかかっている間に、彼が話題を変えた。
すぐそばの掲示板に掲示されている『姿あらわし』についてだ。




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