BELLE STORY+
02
「しかし、これで事はずっと単純明快になる」


スネイプは完全に困惑していた。
この微笑むダンブルドアの意図するものが、まったく理解出来なかった。


「ヴォルデモート卿の計画――哀れなドラコ・マルフォイが、わしを殺害せねばならぬという計画のことじゃ」
「…闇の帝王はドラコがやり遂げるとは考えていません。これはルシウスが先頃、失敗したことへの懲罰に過ぎないのです。ドラコの両親は息子が失敗し、その代償を払うのを見て――じわじわと苦しむ」
「つまり、あの子はわしと同じように確実な死の宣告を受けているということじゃ」
「…いくらマルフォイの息子とはいえ、それはさすがに可哀想だわ」


リーザの意見にまた微笑んで、ダンブルドアは淡々と続けた。


「さて、わしが思うに――ドラコが失敗すればその役割はセブルス、きみに回ってくるのでは?」


セブルスはしばらく黙り込んでいたが――ようやく、小さな声で告げる。


「おっしゃる通りです」
「ヴォルデモート卿は近い将来、ホグワーツにスパイを置く必要がなくなると考えておるのじゃな?」
「あの方はまもなく、魔法省を通じてこの学校を掌握できると考えているようです」


ダンブルドアは静かに頷いて、セブルスの瞳をまっすぐ見つめた。


「もしホグワーツがあの者の手に落ちたなら、きみが持てる限りの力を生徒たちを守ることに使ってくれるとわしは信じておるが――それでよいか?」


スネイプがダンブルドアに頷くさまを、リーザも指の隙間から見ていた。


「よろしい。さて、きみの最優先課題はドラコがどのようにわしを殺害するかを画策するか――それを見破ることじゃな。恐怖に駆られた十代の少年は、自分の身を危険に晒すばかりか、他人にも危害を及ぼす。手助けし、導いてやるとドラコに言うがよい。あの子はきみを好いておるから、受け入れるはずじゃ」
「…そうでもありません。父親があのようになって――彼は私を責めています。ルシウスの座を私が奪ったと考えているのです」


セブルスの少し落胆のこもった声にも、ダンブルドアは事も無げに言った。


「ルシウスの投獄にきみの思惑が反映しているとまで考える愚かな少年ではあるまい。必ず懐柔出来よう」
「…実は」


セブルスはかなり言いづらかったが、言った。


「どういうわけか、ドラコは私とアシハラの仲を勘繰っています。先学期、接触が多かったせいかと思います」


その一言に、リーザがのそりと起き上がる。


「…あんたと娘ができてると思ってるってこと?」
「ドラコからそんな風に思われているとは考えたくない…」


リーザの問いに、セブルスはげっそりとした顔で返した。


「私は他の者が見ているところではアシハラのことを一グリフィンドール生として扱ってきた。しかし、神秘部の戦いの日に、私たちは共闘した形だ。…ドラコは勘が鋭い」
「あんたと娘がなにやら一緒に企んでるように見えて――それが嫌だったってこと…?」


リーザは少し考え込んで、はっと気付いた。


「マルフォイの息子が――うちの娘に惚れてるってわけ…?」
「…おそらく」


渋々答えたセブルスに、リーザの紫の瞳がぎらっと光る。


「絶対息子にはしたくないわ――あのクソガキのせいでうちの娘が怪我させられたって情報はきっちり掴んでるんだからね――」
「リーザ、きみは相手が誰であろうとそれを快く娘婿に迎えるつもりはないのじゃろう」


ダンブルドアが朗らかにそう言って、リーザをなだめた。


「ユーリが結婚式でも挙げるときには、娘を嫁にやりたくないと悔しがって泣くきみを見るじゃろうとわしは思っておったが――お互い、それは叶わぬ夢となってしもうた」


ダンブルドアのその一言で、リーザは俯き、黙り込んだ。
それを見つめて悲しげに微笑み、ダンブルドアは脱線した話を元に戻す。


「いずれにせよ、やってみることじゃ。わしは自分のことよりもあの少年がなにかを企てたときに偶然その犠牲になるかもしれぬ者のことを心配しておる。もちろん、最終的にドラコが助かるために迎えられるべき結末は決まっておる」
「最終的にドラコがあなたを殺すと?」


セブルスは眉をつり上げ、茶化すような調子で尋ねた。
それについて、ダンブルドアはゆるく首を振って淡々と言った。


「きみがわしを殺すのじゃ」


長い沈黙。
またしても、それを破ることになったセブルス。


「今すぐにそうなりたいですか?それとも、少し待ちましょうか。あなたは墓に刻む墓碑銘を考える時間が必要かと思いますが」


皮肉たっぷりのセブルスに、ダンブルドアはやはり微笑んでいる。


「おお、そうは急がぬよ。そうじゃな――そのときは自然にやってくると言えよう。今夜の出来事からして――」


ダンブルドアは呪われた自分の腕を指差した。


「そのときは、間違いなく一年以内に来る」
「それならドラコにそうさせてやればどうです?」


セブルスは投げやりに言った。


「あの少年の魂はまだそれほど壊されておらぬ。わしのせいで、その魂を引き裂かせるわけにはいくまい?」
「私の魂は?」
「きみの魂は引き裂かれまい。老人を苦痛と屈辱から救うだけのことじゃ」


ダンブルドアの言葉に、セブルスははっとする。


「わしは、素早く痛みなしに去りたい。例えばグレイバックなどが関わって長々と見苦しいことになりたくはない。獲物をいたぶるのが好きなベラトリックスなどとも関わりたくはないのお」


ダンブルドアは気楽な口調だったが、真剣な瞳でまっすぐにセブルスを見ていた。
ついにセブルスが小さく頷くと、ダンブルドアは満足そうに微笑む。


「ありがとう、セブルス」




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