BELLE STORY+
彼らの最後(謎のプリンス)
01
ダンブルドアは机の後ろの王座のような椅子に、斜めにぐったりともたれている。
校長室の中央の長椅子には、リーザ・ツダが長い足を投げ出して仰向けに寝転んでいた。
目元を覆う彼女の片手は、ダンブルドアと同じく萎びて、真っ黒に変化していた。


「わたしはいいわ」


リーザは震えがちの、しかしはっきりとした意思を感じさせる声でセブルスに言った。
セブルスは懸命に杖を振り、彼らが被った呪いに対抗する魔法薬を煎じているところだった。


「ダンブルドア先生にあなたの全精力をつぎこんで」
「そう言うならば」


セブルスは半ば絶望しながらも、作り終えた魔法薬を二つのゴブレットに注ぎ入れ――まずリーザに近付いた。


「身を起こしてくれ、ミス・ツダ――あなたは自分でこれを飲むんだ」
「わたしはミスじゃなくてミセス・アシハラだって、何度言えば」


セブルスは出会って以来、リーザを特別に呼ぶときはその敬称を崩さなかった。
ぐったりしながらも笑ったリーザの口元に、セブルスは少しほっとする。


「私にとってあなたはいつまでもミス・ツダで――アシハラはあの子だ」
「はいはい…」


リーザは目元から手を外し、のろのろと起き上がった。
セブルスに手渡されたゴブレットになみなみと満たされた金色の液体を少しずつ飲み始める。
その姿を横目で確認しながら、セブルスは今度はダンブルドアに近付いた。
こちらはもうほとんど気絶していて、セブルスはダンブルドアに魔法薬を飲ませながら彼の手首に向かって呪文を唱え続ける。
やがて、ダンブルドアは意識を取り戻した。


「なぜその指輪を嵌めたのです?あなたたち二人が、揃いも揃って――」


机の上に投げ出された指輪から、はっきりとした呪術を感じた。
嵌めたものを死に至らしめる呪いがこの指輪には掛かっている。


「触れれば呪われると――あなたたちならすぐさま見破ったはずだ…」


ダンブルドアとリーザはセブルスの言葉にそろって顔をしかめた。


「愚かじゃった…。いたくそそられてしもうた…」
「なににそそられたのです?」
「わたしの国の言葉では――この状況を『秘すれば花なり』と言うわ」
「言う気はないと?」


セブルスの静かな怒りの声に、校長室に沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのはセブルスだった。


「ここまで戻ってこれたのは奇跡です!この指輪の、異常なまでに強力な呪い――」


セブルスはおぞましく思いながら机の上の指輪を見た。
黒い石は欠けている。
その傍らに無造作に置かれる『グリフィンドールの剣』で破壊したのであろうと思われる。


「呪いは押さえ込みました。押さえ込みましたが――消すことは出来ない」
「まあ、死ぬだろうなって思ったわ」


リーザの淡々とした言葉に、セブルスはぎょっとした。


「むしろすぐさま死ぬかと思ったけど――ダンブルドア先生、ごめんなさい。足を引っ張って。…連れ帰ってくださってありがとう」


ダンブルドアもリーザと同じく、達観した様子だ。
自分の黒い腕を眺めている。


「礼には及ばん。そして、セブルス――ようやってくれた。わしらはきみのお陰であとしばらく生きていられそうじゃ。わしはあとどのくらいだと思う?」
「…おそらく、一年。時間とともに強力になる種類の呪術です」
「えー、じゃあ最後まで苦しまないといけないパターン?」


リーザが軽口を叩いたのを見て、スネイプは震えながら言った。


「あなたはダンブルドアより重症だ…!若く、呪いの回りも早いだろうし――ダンブルドアに比べて耐性もない…!」
「でしょうね」


リーザはうんざりとため息をついて、また寝転んだ。
座っているだけできつそうな彼女に向かって声を荒らげたことを、セブルスは少し後悔する。


「多分、クリスマスの辺りね」


リーザがぽつりとこぼした。


「わたし、多分その頃に終わるわ――スネイプ、どう思う?」
「…同意見だ」


リーザはセブルスの声に、ふわりと笑ってまた目元を手で覆った。


「セブルス、きみがいてくれてわしらは幸運じゃった。短いながらに、『とき』を得た」
「ええ。ありがとう、スネイプ。足向けて寝れないわね――まあ、現段階で足向けて寝てるけどね」


二人の優秀な魔法使いと魔女からの賛辞に、セブルスは自分の不甲斐なさを嘆く。


「もっとはやく私を呼びつけてくだされば――あなたたち二人の時間はもっと――。指輪を壊せば呪いが終わるとでも思ったのですか?」
「…熱に浮かされておったのじゃな、わしらは」


ダンブルドアは力を振り絞り、座りなおした。




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