番外編
11
狂人のように振舞い始めたアンブリッジに、アシハラはおののいている。
あまりのおぞましさに怯んだのか、彼女が一歩後ずさったので――ドラコとの距離がかなり近くなった。
グレンジャーは白状した。
ダンブルドアの指示で、武器を作っていたというのだ。
アンブリッジは隠し場所に案内するように命令している。


「それと、森に入るというならユーリ・アシハラも」
「…え?」


突然矛先を向けられたアシハラの口から間抜けな声が出た。
アンブリッジが邪悪な笑みを浮かべながらアシハラに近づいてくるので、彼女はまた後ずさり、ついにドラコにぴったりくっつく形になる。


「トフティ教授があなたの面白い性質について大いに語ってくださいましたよ――生き物を下僕にする魔性の持ち主だとか。ドラコ、ユーリ・アシハラの杖は?」
「スネイプ先生が没収されました」
「それは結構」


ドラコの返答に、アンブリッジは満足そうに頷いた。
彼女を抑えておくために同行を申し出たドラコだったが、それはきっぱりと断られる。


「ここに残って、この連中の見張りを。ポッターとグレンジャーの杖の管理もあなたに任せます」
「…わかりました」


ドラコは渋々アシハラをアンブリッジに差し出した。


*


次に目を覚ましたときには、全てが終わっていた。
ドラコが最後に見たのは、自分に向って杖を振るウィーズリーの末娘の姿だった。
昏倒し、医務室で目を覚まして校医が気の毒そうに差し出してきた手紙を受け取る。
ナルシッサからだった。
ルシウスが逮捕されたという知らせだ。


復活が公になった闇の帝王。
魔法省で彼と『魔法界の英雄』が戦う姿を、多くの魔法使いが目撃したという。


(どうなってる…)


ビンセントとグレゴリーを引きつれ、グリフィンドール塔へ向ったのは居ても立ってもいられずのことだ。
ポッターのせいで父親が逮捕などという憂き目に遭った。
考え込んでいるときにグレゴリーに小突かれ、顔を上げた先にはアシハラがいた。


(今、一番見たくなかった顔だ)


父が逮捕され、無残に萎れた自分は彼女の目に滑稽に映っているだろうか。


「一人か?」
「見ての通りだけど…。あなたたち、なんでここに」


(ポッターなしなら、お前に用はない)


父が逮捕された原因はとにかくポッターだ。


「お前には関係ないだろう。さっさと行けよ」
「グリフィンドールの誰かを待ち伏せしてるなら、そんな不毛なことはしないほうが身のためだと思うよ…」


ビンセントがアシハラを威嚇し始めて、ドラコはうんざりした。


「やめておけ」


(鳥頭すぎるだろうが…。こいつを誰だと思ってるんだ?『闇の帝王の孫娘』だ…)


グレゴリーはまだ道理がわかっている。
ビンセントをしっかり引き止めている。


「お父さんたちが捕まったのかもしれないけど、それをハリーたちのせいにするのは逆恨みだよ」
「捕まった『かもしれない』?首謀者の一人のくせに、白々しい――」


そこで言葉を切って、ドラコは気づいた。


「ああ、違うか。スネイプ先生に杖を没収されていては魔法省に乗り込んで戦闘なんて不可能だろうし。ポッターたちに置いていかれたんだろう――のけ者扱いのユーリ・アシハラ」


アシハラはかなり傷ついた顔をしたあと、ため息をついてからまっすぐドラコを見た。


「…あなた、本当に人の弱みを見抜くのが得意だね」
「お互いさまだろう」


無神経に人の痛いところを突いてくる女には絶対に好き勝手に言わせておきたくないセリフだ。
アシハラは表情も変えずにまた口を開く。


「その特技、なにかほかの――いいことに使えないの?心理療法とか」
「うるさい」


黙らせたくて杖を抜いた。
脅しの格好だけ取ったつもりだったが、アシハラも素早く杖を構える。


(マクゴナガルはもう戻ったのか…)


まだ彼女の杖はスネイプの元にあると思っていたのだが。


「僕らとやりあうつもりか?」


アシハラは冷静そのものの目つきでドラコたち三人を順繰りに観察したあと、否定の言葉を口にした。
杖で自分の頭を叩いたと思った瞬間には、彼女は廊下から消える。
窓のない薄暗い廊下で、ドラコたちはしばらく周囲を見回したが――結局彼女はそれきり姿を見せなかった。
目くらまし術だ。
かなり高度な術のはずだが、彼女は闇の帝王の孫娘。
その母親もかなり優秀な魔女だったというから、それなりに力を持っているのだろう。
ドラコはようやくそう察した。


*


「なにをしている、ポッター!」
「マルフォイにどんな呪いをかけようかと考えているところです、先生」
「杖をすぐに仕舞え――」


ドラコが玄関ホールで出くわしたポッターと戦闘になりかけたとき、スネイプがやってきた。
スネイプはグリフィンドールから点を引こうと考えたようだったが、グリフィンドールの砂時計は空っぽだ。


「それでは点を増やしましょうか?」


声の主はマクゴナガル。
ボストンバッグを片手に、もう片手には杖をついている。


「マクゴナガル先生!聖マンゴをご退院で?」
「ええ、スネイプ先生。すっかり元通りです」


(なんだと?)


マクゴナガルがビンセントとグレゴリーに自分の荷物を押し付けるのを、ドラコは流し見ていた。


(じゃあなんでアシハラは杖を持ってたんだ?)


あの日感じた違和感を一つずつ思い出す。
スネイプはアシハラにどこか甘かった。
アシハラはマクゴナガルの研究室ではなく、スネイプの研究室に忍び込んだ。
彼らはアンブリッジの部屋で不自然に見つめ合った。


(おかしいだろう…)


ドラコはこのとき、初めて自分が尊敬し続けてきたスネイプに疑惑の目を向けた。
ユーリ・アシハラとセブルス・スネイプの間には、自分の知りえなかった繋がりがある。


***


五年生のドラコはとんでもなく複雑…
恋愛感情は自覚しているのかしてないのかの微妙なところを目指しています。
そして、学年次席の賢い子って設定を生かして最後、夢主とスネイプ先生を怪しむところまで行ってもらいましたд
謎プリ編以降どうなっちゃうかな?笑




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