番外編
10
「あなた…」
「なにか?」
「いえ――思っていたよりこういう作業に向いているようだと思って」


言いつけ通りにクィディッチの試合後の医務室にやってきて、校医の指示通り働いている。
杖を振って包帯を巻きつけたドラコの手際のよさに、校医は思いがけず感心してしまったようだった。


「アシハラに出来る程度のことが僕に出来ないわけがない」


そう口にしてしまったのは余計だったとドラコは思った。
校医は大層むすっとして、ドラコにかなりの量の雑用を言いつけた。


*


「この場にユーリ・アシハラがいないのだけは少し意外でしたよ。彼女とあなたは一蓮托生だと思っていたのだけど」


アンブリッジ女史の部屋に忍び込んだポッター一味を捕らえ、ドラコは彼らが尋問されている様子を奪ったポッターの杖をいじりながら眺めていた。


「まあいいでしょう。彼女もどこかでなにかをしているはずですけれど、それよりはまずあなたたちね。最後のチャンスですよ――誰と連絡を取っていたの?」
「僕が誰と話そうが、お前には関係ない」
「そう。結構です、ミスター・ポッター。強制するしか道はないようね」


ポッターにそう宣言したアンブリッジがドラコに振り向く。


「ドラコ、スネイプ先生をお連れして」


ドラコは杖をポケットに仕舞い込むと、アンブリッジに頷いて部屋を出た。
ようやくまた巡ってきた勝利のチャンスだ。
ポッターは今度こそ退学を免れまい。
階段を一段飛ばしで駆け下り、地下に辿りついたドラコはスネイプの研究室のドアを押し開けた。


「スネイプ先生――」


視線の先に予想外の人物がいたことに、ドラコ少なからず驚く。
アシハラがスネイプと向かい合って立っていた。
ドラコを見つめて呆然としている。


(アシハラ?)


「どうしてアシハラが?」
「ノックをしなさい」


ドラコの問いにスネイプは素っ気無く返すと、アシハラに向って手のひらを差し出した。


「杖だ。没収する」


アシハラはおろおろしたが、観念したのか、大人しく自分の杖をスネイプに引き渡す。


「アシハラはこの部屋に私がおらぬものと考えて忍び込んできた。なにをしようとしていたのかは口を割らんが」


ドラコにそう説明しながら、スネイプは杖をローブのポケットにしまいこむ。


(『彼女もどこかでなにかをしているはずですけれど』。アンブリッジの言葉通りの行動だ…)


ドラコは内心ほくそ笑んだ。


「寮監のマクゴナガル先生がご不在の今、口を割る気はないのだろう?それなら三人で面談をする日までこの杖は私が預かっておく」
「…はい」
「寮へ帰りなさい。今後のことは追って連絡する」
「わかりました」


(甘くないか?)


スネイプのこの行動が、ドラコには不可解だった。
彼はアシハラに厳しく当たる人なのに、とりあえず無罪放免のように寮へ返してしまうというのはどういうことだろうか。
アシハラは杖を奪われ不機嫌な顔でドラコの横をすり抜けようとしたが、ドラコはそうはさせなかった。
彼女の腕を掴み、そのかなり驚いた顔を見て、先ほど感じた喜びが表情にも反映する。


「残念だな、ゲームオーバーだ」


ドラコの言葉に、アシハラは肩を落として俯いた。


*


ドラコはアシハラを拘束しながら、スネイプを連れてアンブリッジの部屋に戻る。


「それではドラコ、ユーリ・アシハラを捕まえたのね?」
「丁度スネイプ先生の研究室に忍び込んだところだったんです」
「スネイプ先生の部屋の暖炉を使おうと考えたわけね?愚かだこと、あの部屋の暖炉は校外には繋がっていないのよ」


(スネイプ先生の部屋の暖炉を使おうとした?)


このアシハラの行動もまた、不可解だ。
教員の研究室に暖炉が設置されていることは常識的に考えればすぐに察しがつくことだが――スネイプの研究室に忍び込むくらいなら、今は不在の彼女の寮監・マクゴナガルの研究室に忍び込むほうがまだ賢い。


(マクゴナガルの部屋には特別な仕掛けがあって忍び込めなかったのか?それか、試験で元からあまりない脳みそを使い果たしたのか…)


後者であろう、そうドラコには思える。
そこまで愚かではなさそうに見えていたが。


*


「私の部屋から出ておいきなさい!」


アンブリッジはスネイプ相手に怒り心頭だ。
ただ、スネイプの言うことはもっともだった。
真実薬は規制が厳しい魔法薬の一つで、調合にも時間を要すというのに――彼女は真実薬を無駄に使った自分自身の愚かさを呪うべきだろう。


「校則を無視する生徒がこれほどにいるのは実に嘆かわしいことです。この面々が問題を起こさぬよう、校長が留め置いてくださるのを期待します」


慇懃無礼に一礼したスネイプが、ドラコとアシハラに近づいてきた。
スネイプは最後にアシハラのことをじっと見つめると、部屋から出ていった。
ドラコには、自分が拘束しているアシハラがかすかに頷いたような気がした。




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