番外編 08「ドラコ、どうして邪魔しにきたの?」 見回りを終えて戻った明かりの消えた寝室に響いた声に、ドラコは驚かなかったわけではないが、どうにか平然と応じた。 「消灯過ぎてるぞ。寝ろよ」 「答えてよ」 『邪魔』というのは魔法生物飼育学のあと起こったことだろう。 セオドールはかなり不満げな声だ。 ドラコはやけくそな気分で言い返す。 「ザビニがやたらなことを仕出かすんじゃないかと思ったんだ。あいつはデスイーターの息子じゃないし――引っ掻き回されると迷惑だろう」 暗闇の中ベッドの一つに目を凝らす。 ザビニはぐっすり寝ているようだ。 自分の悪口めいた話題に狸寝入りするような男ではない。 セオドールは納得はしていないようだが、これ以上追及する気もないようだ。 「彼女と初めて喋ってみて思ったんだけど」 セオドールはどうやら今日、初めてアシハラと会話したらしい。 「あの子、ずれてない?」 「ずれてる?」 「ブレーズがね、有体に言うと彼女を不細工呼ばわりしたわけだ」 「はあ?」 なぜかザビニにいらっとしてドラコは片眉をつりあげる。 「普通怒るか黙るかだろう?アシハラ、笑ったんだよ。無理に笑うときって、目が笑ってないって言うけど――傍から見てても、邪気なんか一切感じさせない笑顔だった。なんか本当に気味が悪くて」 (不細工呼ばわりされてあの笑顔…) 思い返すアシハラとザビニは、遠目に見ても仲がよさそうな雰囲気を醸し出していたが。 (アシハラは笑顔で武装している) お人好しで、人を嫌う性質でない人物だと考えていたが――ユーリ・アシハラはドラコが考えているよりはるかにわかりにくい性格の女の子らしい。 「僕はいろいろ失敗した気がする」 セオドールが語る『失敗』は、『アシハラにいい印象を持たせておくこと』だろう。 実際、アシハラはドラコと二人になってから怒りを露にしていた。 あの怒りの矛先がセオドールなのか、ザビニなのか、はたまた自分だったのか――それはドラコの知るところではない。 「仕方がないね」 ため息をついてセオドールは布団に潜り込んだ。 制服を脱ぎながらそれを聞き流していたドラコの耳に聞き捨てならないセリフが飛び込んでくる。 「だいたい、ドラコが参戦してくるなら僕に勝ち目はあまりないわけだし」 (『参戦』?) なんのことだろうと一瞬考えて、理解する。 『嫁取りレース』だ。 「そういうつもりは一切ない」 寝巻きに着替え終えて、ドラコはベッドに飛び乗ると天蓋幕をばっと閉めた。 * 高等尋問官親衛隊として活動する夜が来た。 ミッションは『学則違反の集会に参加している者の捕獲』。 アンブリッジの指示に基づいて、パンジーが部屋の中からリストを見つけた。 アンブリッジは方々に指示を飛ばす。 ビンセントとグレゴリーにはレイブンクロー寮談話室近辺の捜索、パンジーとザビニはハッフルパフ、ドラコとセオドールはグリフィンドールだ。 ドラコはポッターの捕獲に成功する。 意気揚々とポッターをアンブリッジに引き渡してから、セオドールとともにスリザリン談話室に帰るついでにハッフルパフ生の捕獲に奮闘しているだろうパンジーたちに合流することにした。 「ハッフルパフのほうはどうだった?」 「駄目。それにアシハラを捕まえ損ねたわ」 暗がりの中、パンジーはかなりくやしそうだ。 二年生のとき、『決闘クラブ』でアシハラに武装解除されたことを人生の恥と語っていたのを聞いたことがあるので、またもや出し抜かれたらしいことで気が立っているのだろうが――。 「ユーリ・アシハラ?きみたち玄関ホールを見張ってたんじゃなかった?」 ドラコが疑問に思ったことはセオドールが口に出した。 ドラコはアシハラがグリフィンドール寮談話室に逃げおおせたのだろうと思っていたが、なぜか彼女は玄関ホールにいたらしい。 「どっかから飛び出してきたのよ。それを追ってここまで…。行き止まりだから追い詰めたと思ったのに」 「あの小さい子に追いつけなかったのか?」 「だってあの子信じられないくらい足速いんだぜ?」 セオドールの驚き声にザビニがむすっと抗議した。 「ああ。確かにアシハラは見かけによらず足が速い」 ドラコは少しだけ安堵していた。 (あいつが退学になるのは困る…) 息が緩んでしまったことに気がついて、表情を引き締める。 (いや、困らないだろう…。なんで僕が困るんだよ) ドラコは自分の心の機微に気づきたくなかったし、気づかれたくもなかった。 「だいたい、なんでアシハラを追ったの?」 セオドールがくどくど説教めいたことを言い始めた。 彼女の話題を引きずりたくないドラコは、話に割り込む。 「もうアシハラの話はいいだろ。マリエッタ・エッジコムの証言がある。ポッターは捕まえたからな、奴だけは確実に終わりだ」 笑いが抑えられないのは仕方がないことだろう。 目障りだったポッターがやっと消える。 周囲はドラコの意見に同調する姿勢を見せ、全員でスリザリン談話室に戻った。 ← | top | しおりを挟む | → |