番外編
05
「さて、このクラスで誰かが怪我をしたことがあると聞きましたが?」


グラブリー-プランクの『魔法生物飼育学』にアンブリッジ女史が査察に訪れている。
クリップボードと羽根ペンを構えながらアンブリッジがグレゴリーに向かってした質問がそれだった。
グレゴリーは少し考えて人差し指でアシハラを指差さす。


(違うだろうが!)


グレゴリーは四年生のときにアシハラに医務室に連れられていってからというもの、なにかと彼女を気にしているような節がある。
あのヒッポグリフが起こした惨事に、幼馴染の同寮生を差し置いてグリフィンドールのアシハラを思い出すとは何事だろうか。
ドラコはグレゴリーの手をはたき落とし、アンブリッジがグレゴリーの指さす方に振り返る前にずいっと前に出た。


「僕です。ヒッポグリフに引き裂かれました」
「ヒッポグリフに?」


アンブリッジはドラコの言葉を聞くや否や慌ただしくクリップボードになにかを書き込み始めた。
あの事件はヒッポグリフが処刑前に逃亡するというお粗末な幕引きを迎えたが、アンブリッジはヒッポグリフを逃がした森番に厳しい追及をしてくれそうだ。


「それはそいつが馬鹿でハグリッドの話を聞いてなかったからだ!」


ハリー・ポッターがそう叫んだが、彼の言動はドラコにとって痛くもかゆくもない。
防衛術の初回授業でポッターがアンブリッジから罰則を喰らった話はスリザリン生も聞き及んでいる。
ドラコが内心ほくそ笑んでいると、案の定アンブリッジはポッターに罰則を追加すると宣言した。
予想通りだ。


しかしそこからは予期せぬ事態だった。


「あなたも同意見?」


アンブリッジはポッターからくるりと向きを変え、アシハラに向き直る。
アシハラはまったく感情が読み取れない無表情でアンブリッジを見つめたまま、はっきり頷いた。


(!?)


「そう。ではグリフィンドールから十点減点いたしましょう」


アンブリッジは頷いただけのアシハラのことを減点した。


(あいつ今、僕のこと――)


*


「ユーリ・アシハラ、お前のこと『馬鹿』だと思ってるんだなあ」


背後からにやついた声が聞こえて、ドラコは顔をしかめて振り返る。
ザビニだ。
彼はとにかくドラコをからかうのが好きだ。


「…うるさい。黙れ」


彼女のあの行動でドラコは苛立っていた。
魔法生物飼育学を終え、城へ帰っていくグリフィンドールの一団を睨みつけながら思う。


(馬鹿だって?人のこと言えた義理か、お人好し馬鹿が…)


正確には、アシハラは頷いただけのことだが。


「まあ媚売っとけよ」


ザビニがドラコの肩に手を置いてにやにや続けた。


「お前の親父の親分の孫娘で、お前の飼い主さまだ」


(飼い主?)


「飼い主さまってなに?」


ドラコが眉根を寄せていたとき、後ろからやってきて追いついたセオドールが出し抜けに尋ねた。
ザビニは得意になって大げさな身振り手振りで話し始める。


「恐怖に弾む純白のケナガイタチ、守ってくださる飼い主の胸に飛び込む――」


ドラコは握りこぶしでザビニの背中を思いっきりどついた。
ザビニは少し詰まった声を上げたが、ドラコの顔を見ると笑いながら逃げていく。


「ドラコ、顔真っ赤」
「うるさい」


セオドールにそう言い捨てて、ドラコは眉間のしわを深くした。


(だいたい、いつまであのことを引っ張る気だ!)


「可哀想だね」
「誰が可哀想だ!」


怒鳴ったドラコをセオドールがきょとんとした顔で見ている。


「ドラコのことじゃないよ。ユーリ・アシハラのこと」
「は?」
「アンブリッジが彼女のこと、なんて呼んだか聞いた?『悪しき血筋のお嬢さん』だって」


セオドールは肩をすくめて続けた。


「ポッターがああして癇癪を起こすたびに巻き添えに減点されてるんだってさ――去年まで本当に目立たない、普通の子だったのにね」


ドラコは自分は去年から彼女を注視していたと反論しようとしてやめた。
そんなことを明かしてどうするつもりだ。


(可哀想…)


間違いなくそう言われてしまう立場だ。
ユーリ・アシハラは様々な思惑に巻き込まれ、引き倒されてしまってもおかしくない立場に立っている。


(だからなんだ)


ドラコは気を取り直してセオドールに向き直った。


「お前、友人いないのにそういう情報どうやって仕入れてくるんだ」
「失礼なこと言わないでよ」


セオドールはドラコを呆れ目で見て口を尖らせた。




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