番外編 02「どうやらトンクスはここにはいねえな。クリーチャーがトンクスの命令に従わねえわけだ。家族の命令にはなんでも従わなきゃならねえはずだから」 「トンクスと親戚なの?」 「ああ。トンクスの母親のアンドロメダは俺が唯一慕った従姉だ――アンドロメダも載ってねえな。ご丁寧に抹消されてる。ここにいたはずだった。アンドロメダはマグル生まれのテッド・トンクスと駆け落ちで結婚したから」 アンドロメダ・ブラックの焼け焦げのすぐ横にある名前に気づいて、息を呑む。 金糸の縫い取りがナルシッサ・ブラックとルシウス・マルフォイを二重線で結び、金の縦線が一本、ドラコという名前に繋がっていた。 「マルフォイ家と親戚なんだ!」 「純血の魔法族はほとんどみんな姻戚関係だ。純血としか結婚させないとなれば選択肢が狭まる。俺の両親はまたいとこ同士だったし。モリーやアーサーもこの図に書き足そうと思えばそう出来るぞ。純血はほとんど残ってないからな――まあ、俺に言わせればここに載るなんてのは不名誉なことだが」 (純血はほとんど姻戚関係…) 驚いたついでに、僕はあることを思い出した。 『わたしたち「はじめまして」じゃないのよ、ハリー。覚えてる?わたし、ユーリのまたいとこなの』 ダーズリー家に僕を迎えに来たトンクスは、そう言ってあのときのユーリの親戚のお姉さんに変身した。 もしかすると、ユーリはシリウスとも親戚なのかもしれない。 ハグリッドの話にたびたび登場する彼女の祖母・アストレイアがこの国の魔女だったはずだ。 「トンクスが迎えにきたとき教えてくれたんだ。彼女はユーリのまたいとこだって。ユーリのお祖母さんは――アストレイアはどこに繋がる人なの?」 シリウスはアンドロメダの焼け焦げから人差し指を動かした。 「ユーリの母親のツダはアンドロメダの従妹だ。母親同士が姉妹の」 (ユーリのお母さんはトンクスのお母さんやマルフォイの母親の従妹――) あることに思い至って、ハリーは絶叫した。 「ドラコ・マルフォイがユーリのまたいとこ!?」 ぱっと振り返りユーリを見る。 少し離れたところで軽食を取っていた面々も一斉にユーリを見た。 ユーリは気管になにかをつまらせたのか、盛大にむせている。 彼女は去年のワールドカップの会場でそのことを知ったと涙目で告白した。 (だからイタチになったマルフォイを助けたり、スクリュートからかばったりしてたのか?) ユーリに対するいらいらがこみ上げてきて、精一杯自分を抑えた。 (違う――ユーリの生まれつきの性格だ。ずっとお人好しだったじゃないか――) 僕は、簡単にユーリにいらいらする。 * (どうしたんだろ、僕…) ユーリは僕に近づいてこない。 僕が彼女にいらいらしているのを見抜いているに違いない。 「あれ、どう思う?」 ロンは小さな声でそう切り出した。 その視線の先には掃除に精を出すユーリと双子がいる。 三人でなにやら笑っていて、楽しそうだ。 「あれってなに?」 ハーマイオニーが尋ねると、ロンが声を荒らげた。 「双子だよ。変だと思わないか?確かに、学校にいるときも僕やジニーよりユーリを構ってる感じはあったよ。探検とか、新作いたずら魔法とか。…でもあそこまでべったり張り付いてることはなかった――」 「二人は二人なりにユーリを元気づけてあげたいと思ってるんじゃない?リーザを尊敬してるんだもの、リーザがいない間は自分たちがって思ってるのかも」 「いや、あれじゃまるで――」 ロンが呻いた。 僕とハーマイオニー、ジニーは顔を見合わせる。 「思い出せよ、フレッドはダンスパーティーにユーリを誘ったんだぜ?あいつらがどうにかなったらどうしたらいいんだよ!」 (どうにか?) 「まさか」 僕が半笑いで言うと、ハーマイオニーが同調した。 「考えすぎよ」 ただ、ジニーは違う意見を持っていたようだ。 「その可能性はなきにしもあらずね。あたしは大歓迎。あんなお姉ちゃんが欲しいわ」 「僕は――絶対――嫌だ――」 ジニーは青ざめたロンを見てけらけら笑っている。 ロンの反応を見て面白がっているのを見ると、冗談を言ってるんだろう。 (ジニーって、こんな子だったっけ?) なんか、明るい子になった気がする。 ふと視線をやった先ににこにこしているユーリの横顔が見え、僕はまたいらいらした。 * 「よかった、ハリー。本当に」 「うん」 ユーリが料理を取り分けてくれながら言った。 その皿を受け取って、僕も頷く。 横顔のユーリはほっとしたように笑っていて、僕の無罪放免を祝ってくれている。 彼女にいらいらはしなかった。 それが、僕も嬉しい。 この屋敷にきて、ユーリが初めて自発的に僕に話しかけてくれたことも嬉しい。 最近、心配事が多すぎてナーバスになってただけだ。 額が頻繁に痛むのもそのせいだろう。 緊張で食事を受け付けなかった胃が空腹を訴えている。 僕はユーリやウィーズリーおばさんが準備してくれた食事にありがたくありついた。 ****** 怒れるハリーはめっちゃいらいらしていたようです・ω・; ← | top | しおりを挟む | → |