番外編
02
九月一日、ドラコはホグワーツ特急に乗車した。
ホグワーツから送られてきた監督生バッジをローブにきちっと留め、監督生の顔合わせに向かった先にいたのはウィーズリーとグレンジャーだった。
ドラコが驚いたのは無理からぬことだ。
この情勢でダンブルドアがポッターに監督生を任せないとは思っていなかった。
しかも、その代役がロン・ウィーズリーとは。


顔合わせを終えしばらくして、ドラコはポッターたちが占拠しているだろうコンパートメントを探す。
とにかく、ユーリ・アシハラの所在を確認する必要がある。


「礼儀正しくだ、ポッター。さもないと罰則だぞ」


ドラコがそう言葉を発した先にはポッターたちが険しい顔で座っている。
目だけでコンパートメントを見回しても、ユーリ・アシハラの姿はない。


(いない)


彼女がこのコンパートメントにいないことを確信していたのに――その不在がわかってしまうと、どうしてだか胸の奥がちりちりと痛む。


(あいつと僕は違う世界を生きていく)


先学期末にそう忠告した。
その忠告通りに彼女はマグルの世界に戻っていった。


「出ていきなさい!」


グレンジャーが立ち上がった。
言われずとも、目的を達成した今このコンパートメントに長居する必要はない。
ビンセントとグレゴリーを引きつれ、歩き出し――彼女の不在について思ったことは。


(これでいいんだ。目の前で死なれては夢見が悪い…)


そう思っていたのに。


「ユーリ、おいユーリ!」


(…『ユーリ』?)


「リー、焦りすぎ」
「焦らないわけないじゃないか、こんなぐったりして!」
「心配ないって。これ飲ませれば――」


通りがかった一室から不穏な声が漏れ聞こえてくる。
この声はクィディッチの解説者とウィーズリーの双子兄弟のものだ。


(ユーリって…)


ドラコは通路に面したガラス窓からコンパートメントの中の様子を窺った。
そして、それを視認した瞬間にコンパートメントのドアをぶち破る勢いで開く。


(なんで、いるんだよ!毎年ころころ居場所を変えて――)


彼女はいた。
黒人のリー・ジョーダンに肩を支えられ、ぐったりと目を閉じている。
昏倒している女子生徒に三人の男が群がる構図に、ドラコは眉を吊り上げて唸った。


「なにしてるんだ!」
「はあ?」
「…マルフォイ」


ドラコの言葉に腰をかがめてアシハラを覗き込んでいた双子が目に見えて嫌そうな顔をして立ち上がった。
ジョーダンはアシハラを支えてうんざり顔をしている。


「ケナガイタチくんは監督生に昇格か」
「似合ってるぜ、その胸糞悪いバッジ」


ドラコを取り囲んだ双子は上背こそないもののがっちりと筋肉質で、取り囲まれると威圧感がある。


「口の利き方に気をつけろ。お前らの言う通り、僕は監督生だ」


ドラコが睨みをきかせて言った言葉に赤毛の双子はへらっと笑う。


「へえへえ、十分気をつけることにいたしましょー」
「で、その監督生さまがなんなわけ?お前が気にするようなものはこのコンパートメントには一つもないはずだけど」
「…それだ」


ドラコはジョーダンに抱えられた少女を指差した。
指差したほうに振り返ったあと、赤毛の双子が怪訝な顔でドラコを見やる。


「なんだよ?」
「ただのユーリだ」
「なんで気絶してるんだよ!お前らなにかしただろう!」


双子の片方はあからさまに驚いた顔をした。
ただ、もう片方は眉をひそめ腕組みして顎を上げる。


「だったらなんだよ。お前に関係ないだろ?」


(関係ない?)


かちんときてドラコは声を張った。


「そいつは僕のまたいとこだ」
「えっ、ユーリとお前が?」


ジョーダンが口を挟んだ。
目を丸くしてドラコとユーリを交互に見ている。


「…お前の腹がやっと読めたぜ」


腕組みしてむすっとしたまま、双子の片方が言う。


「お前、ずっと前からユーリが誰なのか知ってたんだ。それでダンスパーティーの晩、こいつを校庭に連れ出した――」
「「えっ」」


赤毛の片方とジョーダンは驚きの表情でドラコを見ている。
ドラコ自身も驚いていた。
あの晩の出来事を誰かに知られているとは思わなかった。


(アシハラがばらしたのか?)


ドラコはそう考えて、それはないだろうと自ら否定する。
彼女をパートナーに誘ったことすら、ポッターたちは知らないようだった。


「ちょろちょろされっと目障りだ。消えろ」


ずっとむすっとしている赤毛の男にそう凄まれ、ドラコは嘲笑を繰り出した。


「目障り?僕は自分の『またいとこ』に身の振り方を考えさせる必要性があると考えてる。こんな時勢だ、そいつはどちらにつくのが賢いか――お前らの足りない頭でもわかるだろう?」


(そうだ)


ドラコはひらめいた。
ユーリ・アシハラが闇の帝王の邪魔立てさえしなければ、わざわざ殺すことはないだろう。
半分マグルとは言え、闇の帝王の血を分けた孫娘だ。
妙案に頬が少し緩む。
そのドラコを顔を見て、赤毛の双子が髪を逆立てて怒鳴った。


「あっち行ってろケナガイタチ!」
「今更親戚面してこいつにあることないこと吹き込むんじゃねえぞ!」


そのとき、ユーリ・アシハラが目を覚ました。
なにを言う間も与えられず、ドラコはコンパートメントから追い出される。




topしおりを挟む
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -