番外編
04
「なに?」


ユーリ・アシハラはドラコを見上げて小首を傾げた。
成長期の名の下、ぐんぐん身長を伸ばしている同級生たちが大半を占める中この彼女は一ミリたりとも成長していないように見える。
人種違いの体格差も相まって、傍目にドラコとアシハラが同級生だと見破るのは困難だろう。


(『なに?』じゃないだろ…)


セオドールの言葉を真に受けるわけではないが、闇の帝王がどういう意図で彼女を生かしておこうとしているとしても闇の陣営にとって彼女はある種の『キーパーソン』だ。
父・ルシウスがデスイーターであることに気づいていないわけがないのに、その息子に話しかけられたにしてはアシハラは落ち着きすぎている。


(誰もこいつに忠告してないのか?気をつけろとか…。まさか、能天気に戻ってきた?)


そう思い至って、ドラコはしかめっ面で口を開く。


「学年末に僕が言ったことを覚えてなかったのか?」


少し考える仕草をして、アシハラはふわっと笑った。


「確か、『野垂れ死ね』って言われたかな」


(なっ)


ドラコはとにかく驚いた。
この局面で彼女が笑顔を向けてくるとは想像していなかった。
しかしよくよく思い返せば、新入生だったあのころ幾度か対峙することがあったユーリ・アシハラは英語が理解出来ないのか能天気に笑っている女の子だった。
船上でも、大広間でも。
当時はただただ気味の悪い女子生徒だと思っていたが、今はどうしてだか――。


「…そのままの態度なら間違いなくそうなる」


ドラコはなんとかそう言ってアシハラを見下ろした。
彼女はいまだに表情を変えずドラコを見上げて口角を上げている。


「あと僕を見て笑うな…」


脳裏に再び純白のドレスをまとってにっこり笑う彼女がよぎり、ドラコは必死に幻影を追い払った。
絶対に認めたくないことだが、ドラコはすでにこのユーリ・アシハラの笑顔に気味の悪さは感じることが出来なくなっている。
アシハラはきょとんとした表情でドラコを観察している。
視線に耐えかねて、いらいらしながらドラコはまた口を開いた。


「それにしてもお前、学校に戻ってくるなんてどういうつもりだ?」


そう口にした途端、アシハラは急に無表情になる。
しばらくの沈黙ののち、彼女は『とにかく勉強がしたい』というようなことを主張した。


「それにしても、グリフィンドール生にわざわざ声をかけてくるなんてあなたこそどういうつもり?学年末にも言ったけど、わたしに話しかけたってあなたにメリットはないよ」
「メリットのあるなしを判断するのは僕自身だ」


自分の行動を指図するようなアシハラの言動が気に入らず、ドラコは素早くそう答えた。


「とりあえずのところお前に話しかけることにデメリットは感じてないし」
「えぇっ…?」


ぽろっと無意識に口から出た言葉にアシハラは露骨に驚いている。
ドラコは自分でも意味不明な自らの言動に髪をかきむしりたくなる衝動を必死に抑えてポーカーフェイスを取り繕った。


「なんだよ」
「いや…」


かなり気まずそうに口を尖らせ視線をそらしていたアシハラは、しばらくして急に飛び上がった。


「わたし、授業に行く!このままここであなたと話してたら遅刻しちゃう!」


自分の脇をすり抜けて全速力で駆けていくユーリ・アシハラの後姿をドラコは苦々しく思いながら見送った。
彼女は本当に足が速い。




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