番外編
01
「父上、今なんと?」


尋ねたドラコにルシウスは素っ気無く返す。


「来期もお前がユーリ・アシハラに積極的に接触を図るのが望ましい。そう言ったのだ」


あと数日で五年生としての一年が始まる、夏の終わりだ。
ドラコはこの夏、父親と顔を合わせる機会が少なかった。
ルシウスが忙しく立ち回っていて、不在がちだったためだろう。


「先学期が終わる前に父上からもうアシハラには関わるな、という趣旨の手紙を受け取りましたが?」


ドラコの言葉にルシウスは浅く笑う。


「事情が変わった。私とて予想外だ――闇の帝王はユーリ・アシハラを保護する方向に動いている」
「…『あの方』が、アシハラを保護?」


『あなたはわたしの血筋を聞いて、わたしをなにかに利用出来るって思ったんじゃない?でも残念だね、ヴォルデモートはわたしを殺したかったの』


そう言って自分を見上げていた女の子を、ドラコは鮮明に思い出せる。


「…あいつは『あの方』に殺されかけたはずです。どうしてそんなことに」
「わからんから我らは身の振り方を考える必要があるのだ、ドラコ。闇の帝王はあの少女を『殺してはならない』と我々に厳命した」


(殺してはいけない?)


大人の事情というものだろうが、それに振り回されるのは好かない。
目の前に立つ父親を苦々しく思いながらドラコは考えた。


「あいつはグリフィンドール生で――あいつの母親はこちら陣営を嫌っていると聞いてます。あの親子が簡単に『あの方』の思う通りにはならないと思いますが」
「そうだな。結局ユーリ・アシハラは闇の帝王に殺されるのかもしれない。彼自ら手を下すために配下にそういう命令を下した可能性は否定できまい。闇の帝王は自らの手で決着をつけたがるお方だ」


(アシハラを自ら殺すために生かしておく…?)


ぞっとする考え方に喉が鳴る。


「この状況でアシハラが来学期もホグワーツに戻ると、父上は本気でお考えですか?」


彼女は逃げないと決めたと言い立てていたが、彼女がホグワーツに戻ってくる可能性は低いのではないかとドラコは考えている。
その考えを裏付けるのが夏に出た新聞の一つの記事だ。
彼女の血筋は、その母親がワールドカップの決勝戦の晩に闇の印を打ち上げたのではないかと推測する記事の中で公になった。
彼女の所属するグリフィンドールは、先の戦いで犠牲となった出身者が他寮に比べ多いと聞く。
その環境下に戻ってくるのは並外れた覚悟が必要だろう。


「戻るさ。リーザ・ツダはダンブルドアのお膝元こそが彼女の娘にとって世界一安全な場所だと考えるはずだ。とにかく、ドラコ。学校に戻ったらユーリ・アシハラに接触しろ。それで『彼女を殺してはいけない』と考えている闇の帝王の真意がわかるやもしれぬ」


(自ら殺すため以外にアシハラを生かしておかなければいけないと考える理由があるのか?)


そんな理由はきっとないだろうとドラコは絶望的な気分になる。
闇の帝王はユーリ・アシハラを自らの手で殺害することを配下に邪魔されたくないのだ。
父親が退出したあとも、ドラコは鬱々と考えていた。


(それにしてもよくもまあ、ころころと意見を翻して…)


一年前にも同じようなことを母親に説かれた。
だが、そのときとはもう状況が違うのだ。
四年生の一年間でドラコはユーリ・アシハラに出来うる限りの接触を図ったが――学年末に完璧に対立してしまっている。




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