番外編
02
「バグマン見つけた」


近づいてきたジョージが耳打ちでそう告げる。
これは賭けのことで直談判するまたとない機会だ。
ユーリはクリスマスプディングをもぐもぐしながら不思議そうに俺とジョージを見ている。


「あー、ユーリ?しばらくここで待ってろ」
「えっ?」
「パーシーが来てるはずだ。ユーリの方に寄こすから。俺たちちょっとな、野暮用だ」


こんなうら寂しい場所に置き去りにするのは気が引けるが、男には行かなきゃいけないときがある。
はずだった。


「フレッド!ユーリをどこに置いてきたんだ?大広間のどこにも――あっ」


壁際にバグマンを追い詰めたそのとき、なんとパーシーが戻ってきた。


「「あっ」」
「なにやってるんだ、ミスター・バグマンに張り付いて!またいたずらグッズだかなんだかの話か?申し訳ありません、不肖の弟たちが――」
「いやなに、構わんよ。ただ、今からダンブルドアに挨拶に行こうと思ったところだ。ミスター・ウィーズリー、一緒にどうかね?」
「ええ、ぜひ!」


バグマンはパーシーをバリケードに逃げた。
あいつ、邪魔しやがって…。
ジョージはアンジェリーナに見つかるやいなやみぞおちに一発食らった。
うける。
だが、それにしても――。


(まじでどこ行った?)


パーシーの言葉通り、確かにユーリは大広間中どこにもいない。
いつものようなちびっこでもないので人ごみに紛れているわけでもないだろう。


(寮に戻った?)


ない。
ユーリはパーシーに懐いてた。
会いたがってユーリのほうから探しに行っても不思議じゃない。


(外に出た?)


ない。
丸々着膨れしてるときでさえ寒いところには行きたがらない。
校医の言いつけに従って、談話室では上級生集団にまじってでも暖炉の前に陣取っていることがある。


(…連れ出された)


ある、かもしれない。
さっと大広間に視線をさまよわせる。
ディゴリーはいた。
チャンと談笑してる。
デイビースはいない。
ただ、デラクールもいないので二人でどっかに行ったんだろう。


(ロンとハリー)


いない。
なんだ、あいつら、パーティーの晩にまでつるまなくてもよさそうなもんなのに。
ただ、少しほっとする。
え、ほっとする?
なんで俺が。


*


バタービールを飲みながら黙々と待っていると、ユーリが大広間に入ってきた。
大急ぎで駆け寄ってきたユーリに一言。


「ここで待ってろって言っただろ」
「ご、ごめん…」


もごもご謝罪するユーリはは蒼白で、目に見えて震えている。
ロンとハリーになんか付き合って外に出るからだ、ぞ…?


(ロンとハリーどこだよ?)


三人一緒に出ていったなら、三人一緒に戻ってきてもよさそうなもんだ。
二人を置いて先に戻ってくるなんざ…。
クリスマスの晩のムード溢れる校庭に男二人でほっつき歩いてるなんてかなりおかしい。
その上、ユーリの淡いピンクのドレスに不似合いな深緑のショールが目に入って首を傾げたくなる。


「お前、外に出たの?そんなショール持ってたか?」
「え、あの、ちょっと借りたの…」


ユーリは自分の体に巻きつけてたショールの存在にやっと気付いたらしかった。
歯切れ悪くそう言うと、走っていって大広間の扉のノブにショールを括りつけてる。


*


そっからは楽しく踊った。
ユーリはバタービールを飲んで血の気を取り戻し、嬉しそうにはしゃいでる。
踊りながらディゴリーが俺たちに近づいてきて、パートナーのチャンも一緒になってユーリに笑いかけてる。
へえ、この二人ほんとに付き合ってんだ。
ディゴリーに対する刺々しい気持ちが、少しだけ薄くなる。
丁度曲が終わって、少し休憩する流れになった。
ディゴリーが俺たち三人の分のバタービールを仕入れてくるとかで消え、ユーリはチャンと夢中になって喋ってる。


(ん?)


女子二人の会話に混ざるわけにもいかずに手持ち無沙汰に遠くを眺めてたとき。
大広間の扉のあたりにマルフォイが見えた。
マルフォイはノブからあのショールを引き剥がすと、それを近づいてきた奴のSPにいらいらした態度で押し付けた。
しきりに腹の辺りをさすってる。


(マルフォイ…!?)


もしかして、ユーリを連れ出したのって、ロンたちじゃなくて――あいつか!
そう気付いてユーリを見る。
なんのことはない、俺の視線になんかちっとも気付かないでユーリはチャンと談笑を続けてる。


(いや、でもなんでマルフォイだよ…?)


接点なんてほとんどないだろ?
しかもユーリは父親がマグルのハーフウィッチだ。
純血でもマグル擁護派のうちの親父はマルフォイ親子から散々な口を利かれてる。
ユーリが俺の視線に気付いた。
にこっと笑うので、とりあえずにこっと返しとく。


*


パーティが終わるのを待たずに、俺たちは一足早く大広間を出た。
ユーリのことを睨んでいるマルフォイがちらちら視界に入ってくるのがうざったかったせいだ。
ユーリ本人はそんなことにはまったく気付いてねえけど。


「え?空を飛ぶにはかなり寒いんじゃない…?」


ユーリは校庭に出るのを少し渋った。
さっきマルフォイに連れ出されたばっかだろうからな、寒さが身に堪えるんだろう。


「さっき外に出たんだろ?」


俺はにやっと笑って見せた。
踊りながら考えた結果、俺はあのドラコ・マルフォイがユーリに好意でも寄せてんじゃないかってことに行き着いた。
クリスマスの夜に校庭に連れ出すなんて、そうでもなきゃないだろうからな。


(でもそれならかなり面白い)


ドラコ・マルフォイ、ユーリ・アシハラにまさかの大玉砕!
ほんと笑える展開だ。


「『星でも見てた』んじゃないか?」


あいつとりゅう座をかけた『からかい』だけど。


「う、うん。そんなとこ…」


気付いているのかいないのか、苦笑いのユーリは差し出したタキシードの上着を目にも留まらぬ速さで着込んだ。


*


静かで、城からの光も、星も月も綺麗で。
後ろからはずっと楽しそうな笑い声が聞こえて。
冗談抜きで今日はいい日だったと思う。


「今日はありがとう、楽しかった」


そう言って女子寮へ引っ込もうとしたユーリを呼び止める。
じっと見ても目を瞑るなんてことしないから、ユーリとはそういう雰囲気にはなりようがないかなって笑えてくる。


「じゃあな、ちびちゃん。いい夢見ろよ」


リアクションは薄かった。
てか、驚きすぎて固まったって表現が正しいのかもしれない。
そんなユーリに背を向けながらひらひら手を振って、上機嫌で男子寮への階段を上る。
楽しい夜だった。
失敗もあったけど面白い収穫もあったしな。


(Happy birthday Fred and George Weasley!!)




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