番外編 不死鳥の騎士団-O.W.L*03「一人連れ帰って、森に隠してた?」 上機嫌だったロンの表情がみるみる変わっていく。 ハリーとハーマイオニーはその彼の表情に申し訳なさを覚えながら、それでも頷いた。 「まさか、いくらハグリッドでもそんな無謀なこと――」 「それが、したのよ」 暖かな晴れ日で、三人は湖のほとりのブナの木陰で本を広げて座っていた。 いつも四人で行動している友人のうちの一人――ユーリ・アシハラは勉強に集中するために城に残った。 表向きな理由はそれだったが、ハリーはあることに気付いていた。 彼女はいつか『水泳以外は運動が好き』と語ったことがあるので、泳げないのだろう。 彼女の体質では湖に棲む大イカに引きずり込まれる可能性があるので、溺れることを危惧すると湖には近づけないのだろうと思う。 実際、ハリーたちはユーリと一緒に湖のほとりで過ごしたことはない。 「グロウプはだいたい五メートルくらいね、それで自分より背の高い松の木を引っこ抜くのが大好きで、わたしのことは『ハーミー』って名前で知ってるわ」 ハーマイオニーは自分の名前を気に入っているので、変に省略されて呼ばれるのを好まない。 ロンはハーマイオニーが不機嫌そうに鼻を鳴らしたことに笑った。 どうにか不安をごまかしたいのだ。 「それで、ハグリッドは僕らになにをしてほしいって?」 「英語を教えること」 ロンの問いにハリーが素早く答えると、ロンは虚ろに笑った。 「正気を失ってるな」 「本当に。…それと、このことはユーリには黙っててほしいんですって」 「はあ!?」 ロンはハーマイオニーの発言に飛び上がった。 「グロウプってのは禁じられた森の奥にいるんだろ?しかも純粋な巨人なんだろ?ユーリなしの僕らに出来ることがあると思うか?」 ユーリは生き物に好かれる特異体質の持ち主で、禁じられた森に入っても問題がない。 ロンの言葉通り、彼女抜きの自分たちに出来ることは有体に言って、ない。 「ユーリの生き物に好かれる体質が問題なの…」 ハーマイオニーは頭が痛いのか、手で額を押さえてハリーを流し見た。 続きを促されていることを察して、ハリーは弱弱しく切り出す。 「ハグリッドは、グロウプにユーリを会わせたくないって言うんだ」 「なんでだよ」 「…グロウプがユーリのことを好きになったら困るから」 「は、あ?」 ロンは理解不能と言わんばかりの顔つきでハリーとハーマイオニーを交互に見た。 「ユーリのお祖母さんとハグリッドが友だちだったって、聞いたことあるだろう?」 「ああ、確か――アストレイア・ロジエール。僕とハリーがユーリと知り合いになったのはハグリッドが友人の孫娘としてお茶会に誘ったからだ」 「そう。ハグリッドはどうやら――」 ハーマイオニーは言いづらそうだったが、最後にはきっぱり言った。 「学生時代、アストレイアに恋をしていたみたいなの」 「ハグリッドが、恋?でもそれは五十年も前の話だろ?」 「そうよ、でもハグリッドはアストレイアと初めて話した瞬間から――どうしようもなく好きになってしまったって言ってたわ。とてもいい匂いにする女の子だったらしくて」 「いい匂い?」 「ハグリッドが言うには、アストレイアの生き物に好かれる体質って、そういうことだったらしいのよ。その対象にとって、本当に好ましい匂いがするって」 ロンは困惑しきった顔で黙り込んでいる。 ハリーが追撃のように口を開いた。 「ハグリッドはユーリからも同じ匂いがするって言うんだ…。アストレイアに比べれば薄いらしいんだけどね」 「覚えてるでしょう、フラー・デラクールのこと…。あんなにつんけんした人だったし、接点もそんなになかったはずなのに、ユーリのことは本当に可愛がってた。彼女が魔法生物のヴィーラの血を引いているからなのよ」 ロンはもう頭を抱えてしまっている。 「ハグリッドは魔法使いと巨人の間に生まれた半巨人で――それを考えると…」 ハーマイオニーがおずおず言った。 「巨人は魔法族とも夫婦になれるわ。グロウプがユーリのこと異性として好きになってしまう可能性は、十分すぎるほどあるわよ…」 「…黙ってよう。ハグリッドの言う通り、ユーリには」 ロンはため息をついて身を投げ出し、芝の上に寝転がった。 「…わたしたち、なんだか――ユーリに対する秘密がどんどん増えてると思わない…?」 ハーマイオニーが落胆気味に言った。 「例えば?」 「パーシーから来た手紙のこととか――」 「あんなのユーリに話せるわけないだろ!うちの馬鹿兄貴にユーリは結構懐いてたんだ。あんなの知らせたって泣かせるだけだ」 ロンが厳しく言うと、ハーマイオニーは眉根を寄せる。 「わかってるけど…!でも、フレッドとジョージがスリザリンのモンタギューを『姿をくらます飾り棚』に突っ込んだことは?モンタギューがどうしてあんなことになってるかわからなくて、マダム・ポンフリーは随分苦労してるって聞いてるわ」 「だからユーリには秘密なんだよ」 ハリーは冷静に言った。 「モンタギューがどんなに嫌なやつでも――ユーリは困ってる人に対してあんまりそういう区別はしない子だから――マダムに言っちゃうよ。モンタギューがあんなことになってる原因はフレッドとジョージだって。あの三人に喧嘩されると困るんだ。三年生のとき、あの三人のせいでグリフィンドールの雰囲気がものすごいことになってたの覚えてるだろ?」 「それもわかってる…。けど、ユーリに対して秘密にしておくって、本当に正解なのかしら…」 「『隠す』んじゃなくて、『言わないだけ』ってことにしとこうぜ」 寝転んだロンがハーマイオニーを横目に言う。 「聞かれたら正直に答える。僕の持論では、それは絶対悪じゃない。今までにも何回か同じこと言ったけど」 ロンの言葉に、三人は頷きあった。 ユーリに対して、自分たちは少し過保護だろうか? ハリーは胸に浮かんだその疑問を、自ら否定した。 彼女を子ども扱いして伝えないのではない。 大事に思っているからこそ、伝えられないことが――この世の中には多くある。 *** 騎士団編で物語として夢主がスルーしたいろいろの話。 3というのはマジックナンバーだとどこかで読んだ覚えがあります。 ハリー・ポッターシリーズは結局のところ『ハリー』『ロン』『ハーマイオニー』の"三"人が支え合い、助け合って運命に挑む物語なので、ローリングさんは7と同じように3も大事にしているのではないかなあと考えています。 りらとしては、この三人組の深い友情に感銘を受けているので、『BELLE STORY』の主人公は子世代夢主ですが、夢主をあんまり三人組の中に割り込ませたくないなあとも思っているんですね。 おい、夢小説…← そういう感情を表現した結果が賢者編の終盤であったり、神秘部の戦いのときホグワーツにお留守番だったりしたことなわけですが…д 夢主はやたらに言い訳しない性質なので、ハリーが『夢主は超重要な予言のことを自分に話してくれなかった』と騎士団編終盤で考えてしまった時点で二人の友情が崩壊したと思うんですが、ハリーが夢主との友情を思い直したのはこういう『ハリー自身も夢主に秘密にしていたことがある』という事実です。 ← | top | しおりを挟む | → |