番外編
炎のゴブレット
-クリスマス編 >>フレッド視点
Lovely Fruit
01
普段は真っ黒なローブの生徒たちが占める談話室は、女子のカラフルなドレスローブのお陰で視界も賑やかだった。
そこかしこで楽しそうな声が上がっていて、何人かは自分のパートナーの変身ぶりに顔を赤くしてもごもごやっている。
ジョージと色違いの親父のタキシードはなんとか問題なく着こなせるサイズだった。
いかんせんクラシカルなデザインで着崩すと道化に見えるので、俺もジョージもきっちりタキシードを着こんでいる。
リーは俺たちを見て目を丸くしていた。
ちゃんとした大人に見える、とのことだ。
ぶん殴るぞ。


「フレッド、お待たせ」


ジョージと一緒に談話室の真ん中のソファに陣取っていたとき、後ろから呼びかけられた。
ユーリだ。
ジョージもユーリの声に気付いて、俺と同じタイミングで振り向いたが。


(誰?)


予想とは違う女の子が立っていた。
丈の短いピンクのドレスで、すらっとしている。
カールした黒髪がふわふわ揺れてて、その黒髪の上にきらきらしたバラが光ってる。


「「…ユーリ?」」
「うん」


ユーリはにっこり笑った。
いつもより目が大きくて、肌もヴィーラほどじゃないにしろうっすら輝いているし、真っ赤な唇だがそれも嫌味なく似合っている。
だいたい寒がりで着膨れしている女の子だが、制服を脱ぐだけでここまで大人びて見えるもんだろうか。
俺とジョージはソファから立ち上がってユーリを取り囲んだ。


「おっどろいたな」
「おい、奇跡的に可愛いぞ」
「言い方がまずいと思わない?」


ユーリは困った顔で笑った。
ジョージはアンジェリーナが女子寮から出てきたのを発見して、手で合図して去っていく。


「よし。じゃあ行きましょうか、お姫さま?」


いつもより心臓がうるさい気がするけど、談話室が超満員で暑いせいだろ。
ごまかしまじりでおどけて腕を差し出すとユーリはまたにっこり笑って腕を絡めてきた。


「うん、行こ!」


なんか、いつもより顔が近いぞ…。
いつもより確実に背が高い。
足元を見てピンヒールのダンスジューズをはいているのに気がつく。
そのおかげですらっとして見えるのか。
いつも寝起きにくしを通しただけだろう髪がきちんとセットされているのも、ユーリが変身した理由だろう。


(もうちょっと成長したら常時こういう子になるわけ?)


本人が嫌がろうがユーリのことをちびちゃん呼ばわりしてきたが、そうとは呼べなくなる日がくるのかもしれない。


「これね、クリスマスプレゼントでもらったの」


階段を下りながら、ユーリはぐいぐい腕にしがみついてきた。
ピンク色のきらきらの爪で自分のダンスシューズを指差している。


「誰に?」
「母の後輩で、うちに居候してた魔法使いたち。ちびちび言われて可愛そうって思ったんだろうね。絶対足は痛くならないけど、ヒールに慣れてないだろうから気をつけなさいって」


ああ、それでバランスを取るべく俺の腕にしがみついてるわけね。
ほんと近い。
顔が熱い。
いや、熱くない。


「支えとくからすっ転ぶなよ?ドレスで転ぶとみっともねえぞ」
「ほんとだよ。よろしくね、フレッド」


ユーリはずーっと笑顔だ。
ふんわり甘い匂いがして、発生源がユーリの髪飾りのバラだと気付く。


「このバラ本物?」


髪に鼻を寄せて匂いをかぐと、ユーリはくすぐったそうにした。


「うん、母の従姉のお家に咲いてるバラ。母が枯れない魔法をかけたの――綺麗でしょ?わたし、花の中ではバラが一番好き」
「へえ、それで好きな色はピンク?」
「うーん、母がわたしにピンクを身につけさせたがるの。だからだいたい服や持ち物はピンクになっちゃう」


ユーリの母親は見たこともないが、ユーリと似たような感じの大らかな人だろうと思う。
『毒ツルヘビ』という超高価な魔法薬材料を対価なしでほいほいくれた。
ユーリは明らかに金持ちの家の子なので、金持ち喧嘩せずを地でいくタイプに違いない。




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