番外編
02
「むしろそんなことでユーリをスリザリンの継承者だと言っているのか?馬鹿らしいぞ」


アーニーが不躾にも年上の優等生に忠告などという行為をしたので、彼――セドリック・ディゴリーはむちゃくちゃ怒っている。
見たことないくらいだ。
顔が綺麗な人なので、眉根を寄せて凄んでいる姿は鬼神そのもの――。


「ユーリは生き物に好かれる体質で、野鳥でさえ彼女に喜んで近づいてくる。優しい子なんだ」


事の発端のユーリ・アシハラはおろおろしてセドリックとアーニーを交互に見ている。
『決闘クラブ』で蛇を首に巻きつけているときは本当に不気味だったが、昼日中の明るい中で見るとただのちびっこなのでセドリックの言う通りそういう体質だというだけの女の子なのかもしれない。


*


「ほら、行きなさいよ」


ハンナがアーニーを小突いた。


「一人なんだから今がチャンスよ。悪者扱いしたんだから」
「…アシハラがポッターみたいにむちゃくちゃ怒ってたらどうする?」
「それでも謝らなきゃ。セドリックが言ったこと、正論だって思ったんでしょう?」


アーニーはスーザンに背を押されて、決心して歩き出した。
ばっかだねえ、あんなちびっこのどこがそこまで怖いって言うんだ?


「わたし、全然気にしてないよ。わざわざありがとう」


ハッフルパフの一部が息をつめて見守る中、そんなことにはちっとも気づいていないらしいアシハラが、穏やかな笑顔でそう言った。
アーニーはほっとしたようだ。


あの子はセドリックの言う通りの『いい子』なのかもしれない。
俺にとっちゃ『どうでもいい子』だけど。


*


「チョコレート、食べてください」


クィディッチフィールドにディメンターが侵入して、ポッターが墜落した。
俺にとっての初陣は散々だった。
利き腕を怪我しているとか言ってこの悪天候の試合をハッフルパフに回してきたスリザリンのマルフォイ――許すまじ。


「ディメンターの冷気に当てられたとき、チョコレートが効くんです。毒とか入ってませんから――」


どういうわけか医務室に居合わせたアシハラはハッフルパフの選手たちを回ってチョコレートを押し付けている。
セドリックがアシハラから隠れるように身を縮めたのを俺は見た。


「ポッターがあんなことになってるなんて気がつかなかった…。俺は試合中止を願い出たんだが…」


ついにアシハラから隠れるわけにはいかなくなったらしいセドリックがぐったりした様子でそう言うと、アシハラは杖から温風を吹き出させながら彼に頷く。


「でも、セドリックはハリーが落ちてしまう前にスニッチを掴んだんでしょう?今回は完璧にハッフルパフの勝ちだよ。そういうルールなんだから」


アシハラがセドリックの背を優しく叩くと、彼はようやく申し訳なさそうにするのをやめた。
アシハラは校医に何事かを指示されて、忙しそうに医務室を駆けていった。
あの子はクィディッチの勝敗を重視する子ではないらしい。
グリフィンドール寮よりセドリックのほうが好きなのかもしれないが、ポッターの仲のいい友人というポジションにいることを考えると、公平性のある感覚の持ち主なのだろう。


*


「あれ、セドリックは行かないのか?」


クィディッチチームの男連中でホグズミード村へ出かけるのが、もはや慣例行事になっている。
見知った面子の中にセドリックだけがいないのに気がついて声を上げると、セドリックと同級の男子生徒がからかい笑いをした。


「セドは妹ちゃんとデート」
「妹?ああ、ユーリ・アシハラ?」
「そうそう、そのなんちゃらちゃん」


みんなで談話室から玄関ホールまで移動して、そこでセドリックを見つけた。
傍らに立っているのはやはり、アシハラだ。


「セドリックも難儀だよなあ。あれだけ顔がよければ美人どころがよりどりみどりなのにさ」


セドリックはアシハラを連れて、にこにこしながら歩いていく。
俺の正直な感想に反論したのが一つ上の男子生徒だった。


「セドは性格重視なんだよ。俺、あの子のこと嫌いじゃないなあ。いっつもにこにこして、ああいう子がセドにはよく似合うよ。顔も言うほどひどくないし」
「試合で怪我して医務室に行って、あの子がいると僕ほっとするな。マダムが『クィディッチなんて野蛮なスポーツ!』ってガミガミ言うの、遮ってくれるもん」
「本人は『妹みたいに可愛い』って言ってるけど、そろそろ付き合い出すかもしれないぜ」


アシハラは思いのほか高評価を得ている。
周囲より幼く見える容姿をしているので、庇護欲をそそるのかもしれない。
なんとなく腑に落ちなくて、俺は更に続けた。


「それでももうちょい美人を連れてきて欲しいけどね、セドリックには」
「わかってないなあ、ザカリアス。浅い浅い」
「浅いってなんだよ」
「喧嘩やめ!」


口論に発展しそうになったところで口を挟んできた上級生が、俺の顔を人差し指でびしっと指した。


「ザック、間違ってもセドにそんなこと言うなよ?ぶっ殺されるかもしれないぜ。あいつ怒ったら怖えから」
「お、おう…」


いつかの鬼神のようなセドリックを思い出して俺は黙った。
確かにあの顔に睨まれるのは恐ろしい。




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