番外編 JEALOUSNESS*(ハーマイオニー視点)01 名前、ハーマイオニー・ジーン・グレンジャー。 性格、融通が利かなくて大真面目、知ったかぶりででしゃばり。 それが自分への周囲の評価だろうというのは容易に想像がつく。 ホグワーツ入学前の知り合いに関して言えば、『気味が悪い』という評判も加わるはずだ。 きっとマグル生まれの魔法使いにもわたしほど友人がいなかった人物はいないに違いない。 プライマリースクールに通い始めたころから魔力を示しはじめたわたしは、周囲の子どもにとにかく気味悪がられた。 魔女としてホグワーツに入学した今となっては、当たり前のことだと言い切れるけれど――当時のわたしは大いに傷ついた。 物が浮いたり、独りでに動いたり――そういうマグルから見て奇怪なことが起こる原因が自分にあるとは思っていなかったのだ。 いじめに遭ったような記憶もある。 そういう『いじめ』が長くは続かなかったのは、今にして思えば救いだ。 歯科医夫婦の間に生まれたわたしは周りよりいくらか裕福な環境で育てられた。 そして、学力の面で飛びぬけて優秀だった。 大人たちは舌を巻き、授業でしかわたしと接することがない教師たちはわたしのことを賞賛した。 わたしのことを決して『気味が悪い子ども』とは呼ばなかった。 子どもは子どもなりに賢い。 自分より優秀な人間に表立って攻撃する者はほとんどいない。 それで、わたしはいつの間にかいじめられなくなった。 しかし、マグルの子どもたちにとってわたしが『気味が悪い』という事実は変わらない。 わたしが同年代の子どもと話す唯一の話題は、相手の間違いを指摘することだった。 こうして生真面目で融通が利かないハーマイオニー・ジーン・グレンジャーの性格が形成された。 * 『落ち着いて聞いてください。あなた方の娘さんは「魔女」です。ミス・グレンジャー、思い当たる節があるでしょう?あなたにはホグワーツに入学する権利があります』 ある夏の日、ホグワーツの入学許可書を携えてやってきたのはミネルバ・マクゴナガル教授だった。 わたしはそのときやっと自分自身に納得した。 『非魔法族にも稀に魔力を持って生まれる者がいます。お嬢さんは魔法族の教育機関――ホグワーツで学ぶのが適当かと思われます』 ホグワーツで学びたいと言ったわたしに両親は反対しなかった。 彼らもまた、わたしが起こす珍事に悩んでいたのだろう。 (友だちが出来るかもしれないわ) マクゴナガル先生から入学許可書を受け取って、胸に抱いて――一番にそう思った。 わたしのことを気味悪がったりしない、普通の友だちが出来るかもしれない。 だって、ホグワーツは魔法使いの学校だから。 わたしは、その中に混ざれば『普通の子ども』になれるはずだ。 * 自分の望みが淡い期待でしかなかったのだと、ホグワーツに入学してすぐに悟った。 とにかく、同年代の子どもは程度が低すぎるのだ。 入学前に教科書を読み込んできたわたしは、ここでも異端児扱いだった。 同級の女の子たちは教科書を読むより髪をいじったり、まつ毛を綺麗にカールさせることに関心がある人種だ。 男の子たちは授業中にわたしがアドバイスすると露骨に嫌そうな顔をする。 唯一まともそうな女の子はわたしのアドバイスに真剣に耳を傾け実践して成功するととても嬉しそうな顔でお礼を言うけど――日和見で、誰にでもいい顔をしようとする。 わたしが誰かと対立して一人になろうとすると、必ず彼女はわたしを追ってくるのだ。 わたしを可哀想だと思ってのことに違いない。 * ある日ロン・ウィーズリーに『悪夢』とまで言われて、わたしは女子トイレの個室に逃げ込んだ。 パーバティとラベンダーを追い払って一人で泣いていたときにやってきたのがユーリだ。 「なんでハーマイオニーが泣かなきゃいけないの!?」 ユーリは涙ぐんでいて、えぐえぐなにかを言っていた。 わたしに対する賞賛のようだった。 頭がいいとか、努力家だとか――外国人の自分に対してアドバイスをゆっくり話してくれる、とか。 少し呆れてユーリが泣く必要はないのだと指摘すると、彼女はびっくりした顔で固まった。 泣いていた自覚がなかったらしい。 「…わたし、自分がみんなにどう思われてるか、ちゃんと知ってるわ。しったかぶりで大真面目で融通の利かない嫌なやつ。ハリーやロンや他のみんながそう思ってるの、わたし知ってる」 「わたし、ハーマイオニーのこと大好きだよ!」 (『大好き』?) 正直、びっくりした。 両親以外からは言われたことがない言葉だ。 彼女はそれから懺悔を重ねた。 他人から嫌われたくなくて沈黙という選択をすることが多いらしい。 真面目寄りの彼女が校則違反をしているという告白には、さすがに眉をひそめる。 * ロン・ウィーズリーとハリー・ポッターが来てくれて助かった。 ユーリはわたしをかばってトロールからの攻撃をかわし続けていたけど、もう殺されるのも時間の問題だった。 わたしの足は恐怖にすくんで全く動かなかったから。 ユーリは怪我をして医務室に連れていかれた。 わたしたち三人はお互いなにを言っていいか考えあぐねて、結局談話室の隅でもじもじしていた。 「食べてないの?」 談話室に戻ってきたユーリは不思議そうにそう尋ねてくる。 「ただの擦り傷と打ち身だったよ」 本当になんでもないことのように、ユーリはにこにこ笑う。 「みんな、食べ物取りに行こう!わたしおなかぺこぺこ」 そう言ってユーリはわたしの手を引いた。 * 「ロンたち、ハーマイオニーが危ないって、助けにきてくれたんだね。もう仲直りだよね?」 ぶっきらぼうに同意するとユーリはにこにこしたあと、表情を一変させて暗い顔で切り出す。 「ついでにわたしのことももう怒ってないといいけど」 規則破りは感心しないと断言すると、ユーリは小さくなった。 でも、考えてみる。 ユーリはわたしのところに来るためにハロウィーンの晩餐をキャンセルした。 ロンとハリーは談話室に戻ることになっていたのに、わたしたちを助けにあのトイレまでやってきた。 『でも時と場合によっては許されることもあるかも…』 それはハリー・ポッターの行動を擁護しようと、ユーリがわたしに言った言葉だったが。 「でも、まあ、ユーリの言うとおり、時と場合によっては許されることもあるかもね」 そう言ってわたしが笑うとユーリはものすごく嬉しそうな顔をした。 * わたしにも友だちが出来た。 ロン・ウィーズリー、ハリー・ポッター、そしてユーリ・アシハラ。 ← | top | しおりを挟む | → |