BELLE STORY+
03
ノックして開けた扉の先で、双子の兄弟が驚いた顔でこちらを見た。
ルーピンは穏やかに笑って切り出す。


「フレッド、ジョージ」
「ルーピン――先生」


在任期間中に関わりあっていたときのままの呼び方をした双子の片方にルーピンは笑いかけた。


「ルーピンでいいよ。私はもう先生じゃないから。リーザが昨晩のこと結構反省しててね、よければ話をしてみてくれないか?よければ」


双子は顔を見合わせて、それでもルーピンに向かって頷く。


「私も同席するよ。さあ、行こう」


*


「過ぎたことは水に流しましょう。わたしもやり過ぎた感があるわ。娘が珍しく怒っちゃったし」


莉沙の物言いに双子が目を見開いている。
ルーピンは額をおさえた。
莉沙がつい先ほどまで見せていた殊勝な態度はどこかにいってしまったらしい。
強がりたい人なのだ。
それでも、双子が今、なにを考えているのか想像がつく。


(え、そっちがそれ言うの?)
(首絞められたの俺なんだけど…)


双子はそんな顔で互いの顔を見合わせている。


「わたし、娘のことになると見境なくなっちゃって」


莉沙は一応申し訳なさそうな顔を作った。
それを見て、フレッドは思う。
友人の手前、彼女の母親の大っぴらな批判はできない。
彼女は本当に困って、怒っていた。
それでも。


「あなたが俺らのやりとりに口出ししてくるなら俺らはユーリとの関わり方を考えなきゃいけない」


しかしフレッドの言葉で、莉沙はかすかに眉をつった。


「は?まだうちの娘に言うことがあるの?」


双子には長らくにこにこしていた莉沙の表情の変化で双子がざっと後ずさったのを見て、ルーピンは焦って三人の間に割り込む。


「リーザ、言っただろう?ユーリが嫌がることはすべきじゃないよ。母親でもちゃんと友情を育んでる間に土足で踏み込むのはやりすぎだ。ユーリのものの見方を尊重してあげないと」


莉沙は少し考えて、長い髪をかきあげて半眼で呟く。


「…すみませんでしたー」
「…この人、謝るの下手くそなんだ。見逃してやってくれ」


莉沙はルーピンが自分のことを知った口ぶりで擁護するのが気に入らなかったが、したいようにさせておいた。


(謝るのが下手って…)


自分たちに謝罪するのが不本意だという莉沙の考えが、双子にはありありとわかった。
しかし、ものの見方は一通りではない。
彼女は考え方が破天荒な面があるが、友人の母親で、自分たちが頼ってきた実績のある人だ。
この夏、悪戯専門店で売り出す品物のアイディアを実現する方法を一緒に考えてくれた。


「まあ、手打ちにしましょう」


フレッドの発言で、莉沙は心からにっこりした。


「ありがと。通信販売の保証人はわたしがちゃんとやってあげるわ。罪滅ぼしも兼ねて」


莉沙はそれから、表情を引き締めた。


「ここからはお願い」


眉を下げ、顎を引き、年齢に見合わない仕草で自分たちを見ている莉沙に、双子はなぜか感心してしまった。
美人だと得だというのは本当のことだ。


「近々、ハリーを迎えに行くの。娘は、ハリーの両親を自分の祖父に当たる人物が殺害したことにとても心を痛めてる」


だろうなというのは想像がつく。
学年末の、あの薄暗い隠し通路で、彼女はとにかく大泣きだった。
ディゴリーが死んでしまったことも彼女が胸を痛めた原因の一つだろうが――。


「祖父の罪の責任を孫が取れというのは酷だ。逆ならまだしも」
「優しいわね」


莉沙は心から言った。
こういうセリフが即座に出ることを考えると、彼らは十分信頼に値する少年たちだ。


「あの子は魔法界から逃げたくないって言ったの。逃げても終わらないからって。でも、まだ心の整理はついてないと思う。血の因果というのはね、一生ついて回る」


一生ついて回る、血の因果。
『例のあの人』の血を、彼女も引き継いでいるということ。
魔法界に血を重要視する純血至上主義者が多くいることを考えると、莉沙がそう考えるのも当然かもしれない。


「ハリーの方も、どう思っているのかは想像しかできない。一ヶ月近く除け者扱いしちゃったしね」
「あいつらは心配いりません」


ジョージは素早く言った。
ロンにしろ、ハーマイオニーにしろ、当然ハリーも、彼女の大親友だ。
傍で見ていてもそれははっきりわかる。
ただ、莉沙は渋い顔をした。


「…理屈じゃない思いが浮かぶことがあるのよ。折々で、ハリーは娘の中にあいつを見るかもしれない。娘が生き物に好かれるのはわたしの母譲りの体質だけど、あいつの性質も引き継いで、パーセルマウスでもあるの…」


ハリーのみならず彼女がパーセルマウスだというのは知らなかった。
確かに、秘密の部屋の事件があった年、彼女は邪悪な蛇使いの子孫とか呼ばれて周囲に遠巻きにされていた。
自分たちはその噂を面白がって煽っていたのだが。


「新聞にあの記事が載ったから、ホグワーツ生の大半が娘をあいつの孫として扱うでしょうし――」


莉沙は苦悩の表情で額を手の甲でおさえ、双子に視線をやった。


「うちの娘のこと、助けてあげてくれない?」
「俺らに出来ることなんかあるんですか?」


率直に疑問に思ってフレッドが素早く尋ねると、莉沙は控えめに笑った。


「あるわ、もちろん。逃げ道になってあげてほしいの」
「「逃げ道?」」


莉沙の言葉の意味がわからず、双子はそろって首をかしげる。


「本部で、ホグワーツで。あの子の心の整理が着くまで。自分を責めることはないんだって、胸を張ってハリーと向き合えるように。娘には魔法界に残るか否かの決断を早々に迫ってしまったの。だから、娘は直感的に魔法界に残ることを選んだ気もする。…娘自身が納得して、それからハリーに向き合わないと、心を消耗させる――生まれてきたくなかったなんて思わせたくない。わたしみたいに」


そう言って、莉沙は自嘲的に笑った。
『例のあの人』の娘として、この女性がいろいろなことを抱えて生きてきたのだろうというのは想像がつく。


(産まれてきたくなかった…)


表面上、笑って語る莉沙が嘆いているように見えたのはフレッドだけではない。


「任せてください」
「最後の一年、ユーリの面倒見てやるのも悪くないです」
「本当にありがとう」


莉沙は双子とぎゅっと握手を交わして、夜遅くまで話し込んでしまったことを謝罪して、双子を送り出した。


*


双子を送り出したルーピンの部屋で、莉沙はソファにひざを立て考え込んでいた。


「わたし、間違ってないわよね?それとも、やっぱりクズかしら…」


ハリーと彼女の娘が積極的に関わることは今はよくない。
それに関してどうしてなのかというのを子どもたちには明かすことが出来ない今、莉沙の発言は嘘も方便と言えるだろう。


「伝えられることが少ないからね。…今出来る最善のことをしたと私は思うよ。全部嘘ではないわけだし。フレッドに絞め技かけたのが話をややこしくしたけど」
「わたしって、本当に駄目ね」
「そうでもないと思うけど」


ルーピンが穏やかに肩を叩いたので、莉沙はようやく少しだけ笑った。


*
母親の画策。
こいつめっちゃ性格悪いぞ!とは思ってますが、りらはそういう女の子(?)がタイプなので…。
動かしやすいぞ!
ママ的にはうちの天使ちゃんに無礼な口叩いたんだから助けてあげたっていいでしょ?→ありがとね、代わりに保証人になってあげるわと話を持ってくはずだったんですけど、フレッドがダンパのパートナーだったという衝撃の事実を父親目線で受け止めてしまったため手が出てぐちゃぐちゃになってしまったわけです。笑




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