BELLE STORY+ 02「ふーん?うちの愛娘をちんくしゃ呼ばわりしたってわけ?」 フレッドは少し焦った顔をしている。 「あれは、つい――」 「つい、なに?うちの子随分落ち込んでたんだけど」 莉沙はにっこり笑ってフレッドに手招きをする。 フレッドがしぶしぶ立ち上がって莉沙の側にやってくるのを見届けずに、莉沙の方もフレッドに向かって駆け出した。 ラリアットをかまして、チョークスリーパーの形を取る。 そこで、ついにルーピンが立ち上がった。 ブラックは呆れ交じりの半眼で莉沙とフレッドを見て口の端を上げた。 「あーあー、やめろよ。それ、ユーリが見たらかなり嫌がるぞ」 「本当にやめてくれ、リーザ。というかそれ入ってる!入ってるから!」 『ママ!なにやってるの!』 ブラックやルーピンの言葉が耳を通り抜けて行った莉沙にも、この声だけは大音量で響いた。 娘が扉に手をかけた状態で目を見開いている。 『ママ、フレッドに謝って!』 愛娘が血相を変えてぎゃんぎゃん抗議してくるのにうろたえ、心苦しくなり、莉沙は逃げた。 * 「首いってえ…」 「ユーリが言ってた通りのことが起こったな。やるじゃん、『いい匂いだった』、なんて」 「それぐらいしか言うこと思いつかなかった…」 首を押さえるフレッドをジョージが笑うので、フレッドは顔をしかめた。 「可哀相じゃね?『お前のことちんくしゃ呼ばわりしたのがばれてお母さまに制裁加えられてました』なんて。ユーリ、リーザのそういうとこよく思ってなさそうだったしな」 「確かに。でもお前がユーリにどうこう言うからこうなったんだろ」 「あいつぎゃあぎゃあ言わないからつい…」 (ユーリとディゴリーがホグズミートにデートしに行くのが気に食わなかったんだよなあ…) ジョージは心の中でそう思って、口に出すのはやめた。 ディゴリーのことを思い出すと心臓が痛い。 「言い過ぎだったかもしんねえけど、リーザに首絞められなきゃいけなかったなんて思わないぞ。…超過保護」 「リーザがああいう人だからユーリがああ育ったんだろ」 「…まあ、個人としては気に入ってるぞリーザのこと。だけど恋人の母親には持ちたくないタイプだ。いろいろ口出されそー…」 自分で言った言葉でフレッドはなぜか落ち込んだ。 ジョージが半笑いでフレッドを見ていることには気づいていない。 「伸び耳使って情報収集するか」 「そうだな」 階下の騎士団は今、ハリーのために動いている。 * 「とりあえず、退学処分は保留」 「よかったよ、本当に…」 ブラックとルーピンの会話を聞きながら、莉沙は疲れきってダイニングテーブルに突っ伏した。 明け方の四時が近い。 騎士団の会議は解散し、ウィーズリー夫妻は寝室に引き上げていった。 莉沙の部屋にもう一つベッドを増やしてドーラを眠らせることにした。 へとへとで家に帰る気力がない、明日の朝一で魔法省に行くにはここで寝るほうが都合がいいと泣きつかれたためだ。 厨房に残るは莉沙とブラック、ルーピンの三人だ。 「…わたしって、駄目な母親かしら」 「今更なに言ってんだよ」 莉沙は手近にあった羊皮紙の巻物をブラックに向かってぶん投げた。 ブラックはそれを笑いながら避け、厨房から出ていく。 「…だから、私たちは忠告しただろう?ユーリは絶対嫌がるって」 「だってずっとわたしが守ってきたのよ!ホグワーツに入るまでは、片時も目を離さず大事に大事に――」 「それは、そうだろうけど…」 (ユーリが珍しく本気で怒ってたからなあ…。リーザが落ち込むのを見るのは久しぶりだ) ルーピンは苦笑いで莉沙を見つめている。 「あの子があんなに大人になってるなんて思わなかった…。もうわたしが四六時中守ってあげなきゃいけない小さい子じゃないの?いいえ、そんなわけないわ…」 (なんか、可哀相だな…) 彼女が自分の命より大事にしているのは娘だろう。 その愛娘にあれだけ怒った顔で詰め寄られてしまっては。 「見つかるところでやるんじゃなかった…」 「そうじゃないだろう」 莉沙のその一言で、纏う儚げで憐れな雰囲気が消え去った。 ルーピンは呆れ混じりにため息をつく。 「あの双子は使えるはずだったのよ。わたし、もう少し上手く立ち回らなきゃいけなかったのに…」 物騒な言い方をし始めた莉沙にルーピンは呆れ返った。 「あなたはそういうところが駄目だと思うよ」 「ひどい!」 後輩の自分よりかなり若々しく見える莉沙が、うっすら涙目なことに気づいてルーピンは動揺した。 「彼らになにかお願いするつもりだったの?」 「そうなの…。わたし、忘れてたわ。あの小僧が娘のパートナーになったなんて嫌な情報知ったせいで…」 莉沙はルーピンに計画していたことをぽつりぽつりと語った。 「それは、私も必要なことじゃないかと思う。フレッドとジョージにお願いするだけしてみようよ。こんなとこで腐ってないで」 「…そうね」 「リーザ、明日は朝から活動があるだろう?さ、はやく寝よう」 「わかったわ…」 莉沙も寝室に引き上げていった。 ルーピンは厨房で杖を振り、照明を消した。 ← | top | しおりを挟む | → |