BELLE STORY+ 01仕事を辞めて時間が出来た。 「ずっとやりたかったことをやるときが来たと思うの」 莉沙が胸を張ってそう宣言すると、ルーピンが首をかしげた。 「やりたかったこと?」 「娘を『ちんくしゃ』呼ばわりした不届き者を探し出すのよ!」 ルーピンとブラックは目を見開いて、それからブラックが長いため息をついた。 「あんた、今、ここでやることがそれか?」 「わたしの見立てではあの双子兄弟が怪しいわ」 「おい、聞け!」 莉沙がブラックを丸ごと無視して話を続けようとするので、彼がいきり立つ。 「それ、最近の話かい?」 「いいえ、一昨年のクリスマスにぽろっと漏らしたの。あんたの在任期間中ね」 ルーピンまでブラックを無視した形になったので、ブラックは呆れ顔だ。 「お前ら…。いいか?あんな性格のいいユーリの容姿のことどうこう言う奴がグリフィンドール生なわけないだろうが…。この屋敷じゃ見つかりっこないぜ」 「確かにそうだね。ユーリは大人気だったよ、どの子も妹みたいに可愛がってる風だった。私の授業中にユーリが泣いてしまったことがあるんだけどね、クラス全員心配顔で見てて――」 「泣いた?あんたなにやってんの!」 莉沙がルーピンを恐ろしい形相で睨むと、ルーピンは自分には非がないとばかりに素早く言う。 「ボガートが豹に変身したんだ」 「う…。まあ、その話はいいわ」 莉沙はひるんで口ごもった。 娘に自分が甚大なトラウマを植えつけてしまった自覚はある。 「…わたしには娘にどうこう言ったのがグリフィンドール生だって確信があるの。泣き言なんて滅多に言わない子よ。いじめっこに意地悪言われたって大して気にせず笑ってる子なの」 「それで、仲がよさそうな友人たちの中にそういう発言をした人物がいると思ってるんだね?」 「そう」 莉沙はルーピンの問いかけに頷く。 「あの年のクリスマス、ハリーに忍びの地図を渡した奴らがいるって娘が珍しく怒ってたの。そういう感情は連鎖するものでしょ?」 「私はあの年、そんな話はユーリから聞かなかったよ」 「だから言ってるでしょ!泣き言はわたしにも滅多に言わない子だって。だいたい、事を知ってわたしが相手に報復に行くのを嫌がる、天使より優しい子だしね」 最後に娘自慢をくっつける莉沙を、ブラックが呆けて見ている。 「…じゃあやめとけよ」 「シリウスの言う通りじゃないかな。ユーリの考えをちゃんと尊重して――」 「娘に害をなす不逞の輩を成敗するのは母親であるわたしの役目なの!もういい、あんたらには頼まないわ!」 後輩二人に爆発して、莉沙は厨房から消えた。 あとに残る二人は苦笑いだ。 ブラックはむしろ失笑の表情をしている。 「リーマス、あれ、どうにかしとけよ」 「無理言わないでくれ…」 * 数日は穏やかに過ぎた。 モリーが家族の持ち物を取りに隠れ穴に一時戻るというので、莉沙がモリーに変わって夕食の片付けに精を出している。 「うちのお袋、いないっすか?」 「モリーは隠れ穴に戻ったぞ。お前らの箒取りに」 子どもたちは上階に引き上げていったはずだったが、ウィーズリーの双子兄弟が揃って戻ってきたことで莉沙は好機がやってきたと思った。 「今がチャンス。リーザ!」 「どうかしたの?」 莉沙は食器棚を杖を振って閉め、双子に向き直る。 モリーの不在で好機がきたと思っているのは、どうやら莉沙だけではないらしい。 「悪戯専門店のジョークグッズを通信販売したいと思ってるんです」 「そうなの?いい考えじゃない。あなたたち、学生でいられるのはあと一年ですものね」 莉沙は双子の一方にそう声をかけた。 どちらがフレッドでどちらがジョージか、莉沙には見分けがつかない。 「それがネックなんです。成人しててもホグワーツ生が日刊預言者に広告を出すときには、成人した保証人のサインが必要で」 「ああ…。モリーもアーサーも、あまりいい顔はしそうにないわね…。品物のリストはある?」 「はい、ここに!」 双子が嬉々として莉沙に羊皮紙を突き出したので、莉沙はブラックの近くに腰を落ち着けた。 双子はテーブルを回りこんで莉沙の正面に腰掛ける。 ルーピンがモリーを見送り厨房に戻ってきたのはそのときだった。 「うわあ、悪そうな面子」 「お黙り」 莉沙の笑顔の一喝に、ルーピンも笑って肩をすくめるだけだ。 ルーピンはとにかく、莉沙からのこういう扱いに慣れている。 「ここからここまでは販売しても問題ないでしょうね。でも、口に入れるものはもう少し検証を重ねなきゃ。『ずる休みスナックボックス』は論外」 「『カナリアクリーム』は?」 「うーん、あれは理論は完璧ね。わたしも被験したから安全性もまず問題ないかしら…」 「あれ、グリフィンドール生の結構な人数が食べたんです」 「クリスマス前に食べたユーリもぴんぴんしてる。安全性には自信があります」 「そうね、いいでしょう」 空中から出現させた羽ペンでリストに印をつけながら、莉沙はなんでもない風を装って聞いた。 「娘は学校でどう過ごしてる?」 「ユーリ?楽しそうですよ。人当たりがいいから俺らの同級生もよく可愛がってます」 「うちの偏屈な馬鹿兄貴もユーリのこと随分気に入って可愛がってたし」 双子は同じ顔立ちなのに顔つきが変わった。 陽気に語る方と、乱暴な言葉で自分の兄――パーシー・ウィーズリーだろうが、それを貶すしかめっ面をした方だ。 「あなたたちも?娘より二学年上にしては仲がよさそうに見えたわ」 「そこそこじゃないっすかね。ホグワーツ城の探検したりで仲良くなった。リーザからの抜け道指南一緒に試したり」 しかめっ面が、少しだけ柔らかい顔になる。 陽気な方が、しかめっ面を指差して言った。 「去年のクリスマス・ダンスパーティー、フレッドがユーリのパートナーだったんです」 どうやらしかめっ面をかました方がフレッド、陽気にはきはき喋っていた方がジョージらしい。 (フレッド・ウィーズリー…) 「へえ…。あなたが」 莉沙はフレッドをちらっと見て視線をリストに戻した。 (『小僧ども気づいてねえぞ、ツダの目、年頃の娘を持つ父親の目そのものだ…』) (『リーザは旦那さんが早くに亡くなったから、自分がユーリの父親を兼ねるって息巻いてるしね…』) 莉沙の耳にこそこそ語り合うブラックとルーピンの会話が聞こえた。 リストに印をつける莉沙の羽ペンの先に夢中の双子は、その会話に気づいた様子がない。 「…じゃあ、喧嘩なんかしたことない仲良しさん同士なのね」 莉沙が双子を見据えてにっこり言うと、双子はばつの悪い顔になる。 「そんなとこですかね」 「あの地図のことでやりあったことはあるけど」 「うちの娘、あんまり怒らない子なのよ」 驚いた風を装う莉沙にフレッドが笑った。 「大らかっすよね」 「まあ、フレッドが下地を作った感じではあるんです。ちんくしゃとか言ってユーリを怒らせてた――」 「おい、」 (見つけた!) ジョージの発言で、莉沙は立ち上がった。 ← | top | しおりを挟む | → |