番外編 04ここ最近、アシハラがみるみる痩せていっている。 地下牢教室に入ってくるときもどことなくふらふらしているし、魔法生物飼育学でもユニコーンにじゃれつかれて転倒したりといいようにされるがままだ。 どうしてポッターたちは気がつかないんだ? あんなの、今すぐ医務室にぶち込むべきだろう。 * トライウィザード・トーナメントが胸糞悪い結末で幕を閉じた。 ハッフルパフのディゴリーが死んだ。 ディゴリーは確か純血の魔法使いの家の子どもだったはずだ。 それが、死んだ。 ポッター曰く、殺害されたのだという。 フィールドの真ん中でハリー・ポッターがディゴリーの遺体の腕を握り締め、闇の帝王の復活を宣言した。 僕にはポッターがアシハラを抱きしめているように見えていたが、周囲はそう言わないので見間違いなのかもしれない。 * 父上から手紙が届いた。 『彼が帰ってきた』の一文のすぐ下に、『アシハラに構うのはやめろ』と付け加えられているその手紙を受け取って、僕はいろいろなことを考えた。 僕のほうが望んであいつに構っていたような書き方の手紙には嫌悪を覚える。 父上の命令で仕方なく行動していた僕への侮辱に近い。 手紙の内容から察すると、アシハラはポッターとともに闇の帝王の復活を目撃したのだろうと思う。 そして闇の帝王はアシハラに気を許すことがなかった。 それ以外のシチュエーションで父上が僕にこんな指示を出してくるのは早計だ。 だいたい、あんな魔女らしくない容姿のアシハラを闇の帝王が気に入るかもしれないという考えが馬鹿げていたんだ。 僕の言った通りじゃないか。 もう関わらなくてもいいようだということにはせいせいするが。 ポッターは抜け殻のようにぼーっとしながら日々を過ごしている。 周囲の何人かはポッターがディゴリーを殺したのではないかと囁きあっているが、それは違うだろう。 そこまでの力量がポッターにあるとは思えない。 ディゴリーは優等生だったはずだ。 アシハラは周囲の視線からの盾にでもなろうとしているのか、ウィーズリーやグレンジャーとともにポッターをかばいながら行動している。 隈がひどく目立つ顔は正直痛々しい。 今すぐマグルの世界に逃げ帰ればいいのに。 * アシハラは僕を見てびくりと身をよじった。 少しおろおろして、一瞬上階に目を向けたが、意を決したかのようにまっすぐ僕を見つめている。 その仕草で、僕は自分の推察が間違っていないことを確信した。 アシハラはポッターとともに闇の帝王の復活を見た。 そして、デスイーターである父上を見たのだ。 少なからず僕を警戒しているのだろう。 「…あなたがどうしてわたしに話しかけてくるようになったかやっとわかった。わたしの祖父がヴォルデモートだって知ってたんだね」 闇の帝王の名を口に出されて一瞬たじろぐ。 アシハラはやはり自分の本当の血筋は知らなかったらしい。 それも当たり前かと思い直す。 普通なら、自分の祖父が殺害しようとした人物と懇意には出来ない。 ポッターは殺されかけた上、両親を闇の帝王に殺害されている。 「お前なんかが軽々しく口にしていい名前じゃない」 「わたしのお祖父さんなのに?」 アシハラはそう言って嫌な笑い方をするとさっと階下へ降りていこうとした。 とっさに腕を掴んでしまい、困惑顔のアシハラに見上げられる形になる。 「あなたはわたしの血筋を聞いて、わたしをなにかに利用出来るって思ったんじゃない?でも残念だね、ヴォルデモートはわたしを殺したかったの」 頭のいいやつなのかもしれない。 父上の目論見をアシハラは見破っている。 そんなアシハラが自身に利用価値はないという。 闇の帝王が、アシハラを殺そうとした? 「わたしに関わってもあなたにメリットは――」 「死にたくなければこの世界から消えろ」 思いがけない言葉が自分の口から飛び出して、自分自身驚いているのを悟られまいと必死に無表情を貫く。 アシハラは眉根を寄せて僕を見上げている。 理解できないという顔だ。 無理もない。 「…そんなこと、あなたに指図されたくない」 アシハラは僕の手を振り払おうと、自分の腕を上下に大きく振った。 その仕草にいらっとして、声を張った。 「おい馬鹿、聞け!」 「馬鹿はそっちだよ!わたし逃げたりなんかしない!」 「『あの方』の力は強大だ。お前なんか、すぐにでも消されてしまうぞ!」 「ヴォルデモートはわざわざわたしを殺しに来たりなんかしない!目に付いたから殺そうと思っただけだよ!」 アシハラは僕をぎらぎら睨んでいる。 ここまで感情をむき出しにして怒鳴っているのを見るのは初めてだ。 三年生のときのヒッポグリフの事件の直後の医務室でも、アシハラは怖いくらい冷静にものを考えていうやつだった。 アシハラは闇の帝王に殺されかけたというのに、それでもマグルの世界に逃げ帰るつもりはないという。 その行動は馬鹿そのものだが馬鹿呼ばわりが相当気に食わなかったらしい。 「逃げないってもう決めたの!」 そう奮起させるだけのなにかがあったのだろうが、僕にはわからない。 わかりたくもない。 掴んでいた手を乱暴に離すとアシハラはよろめいた。 「せいぜい野垂れ死ね!」 捨て台詞を吐いて、階段を足を踏み鳴らして下る。 よく考えると気分転換に図書館に行くつもりで階上を目指していたというのに、再びアシハラに出くわす可能性を考えると出歩くのが億劫になって僕はそのままスリザリン談話室に戻った。 *** 男の子視点難しい… 四年生ドラコの一年間はこんな感じです. 懐柔の類義語をぐぐったら出てきた微笑作戦という単語が気に入ってしまったのでこんなタイトルですが,ドラコは特に笑ってないどころかちょいちょい怒ってます.笑 原作読んだところザビニくんはマルフォイを特別視してない黒人の偉そうなイケメン,ノットくんは孤高の一匹狼という印象を受けたのでりらの中ではこんなキャラです… これ,今後無事に仲良くなれるの?← ← | top | しおりを挟む | → |