番外編
02
重たい気分を引きずってホグワーツ特急に乗車する。
夏休み中いろいろ考えた結果、僕がユーリ・アシハラに好意的な態度を取らなければならないのは崩しようのない事実らしかった。
嫌だ。
とんでもなく嫌だ。


鬱憤を晴らそうとグリフィンドールの奴らをからかいに行く。
グリフィンドールの四年生が大勢集まるコンパートメントを見つけて扉を開くと、アシハラがウィーズリーの隣に座っていた。


おい、なんでいるんだ!
去年はウィーズリーの双子兄弟と一緒にいたじゃないか!


アシハラと目があって、僕はとっさに目をそらした。
受け入れがたい。
こいつが僕のまたいとこで、闇の帝王の孫娘で、これから好意的な態度を取らなければならないこと。
全部受け入れがたい。


「出てってよ」


アシハラが冷たい声でそういうので、僕はそれを鼻で笑ってコンパートメントから出た。
僕の態度はどう考えても失敗だが、アシハラを懐柔しなければならないとしてもグリフィンドール生をけなすのをやめるつもりはない。
僕のアイデンティティーだ。


*


アシハラは尻尾なんとかを前に目を輝かせている。
はっきり言って頭がおかしい。
そういえばアシハラは一年生のとき、ドラゴンの子どもをあの大男と一緒になってうっとり見つめていた。
本当に頭がおかしい。


*


「マルフォイ、災難だったな」
「黙れ」


忍び笑いを隠しもせず声をかけてきたザビニを睨みつける。
それでもザビニはにやにや笑って僕を見ている。
お前なんか嫌いだ。


「あのグリフィンドールの女の子に足向けて寝れないぞ。マッドアイから守ってもらったんだから――ッ」


最後に吹き出し笑いをしたザビニは僕が投げたクッションをひらりと避け、笑い続けながら寝室から消えた。
本当に大嫌いだ!


今し方、生き物を下僕にする魔性を体感したばかりだ。
アシハラがひざまずいて僕に向かって腕を広げたとき、頭では飛び込んでなるものかと身構えたのに、次の瞬間に僕はアシハラの腕の中にいた。
いい匂いに釣られたのだ。
アシハラのアストレイア譲りの体質とはああいうことなのだろう。
衆人環視の中、ヒトの姿に戻った僕を生徒たちは笑いながら見ていた。


…死にたい。


アシハラもウィーズリーたちにやいやい言われているころだろう。
そういえばあいつはマッドアイに向かってわーわーわめいていた。
マッドアイ流の生徒指導を邪魔したことで罰則でも受ければいいんだ。



*



「別に僕がここにいても問題ないだろ、アシハラ?」
「え、あ、うん。そうだね…?」


自分のすぐ隣にしゃがみこんだ僕に呆気に取られた様子のアシハラは、そう答えた。
普通なら嫌だと言ったっておかしくない場面だ。
アシハラはきっと頭が悪いのだろう。



*



「ドラコ、趣味変えた?」


授業が終わってすぐ話しかけてきたのはセオドール・ノットだ。
父親同士に交流があるせいで幼いころから顔見知りだが、だいたい一人で行動するのを好む陰気なやつで僕とは性が合わない。
話しかけてくるとは珍しい。


「なんのことだ?」
「さっきの。ユーリ・アシハラに声かけてた」


父上の命令さえなければ僕だってあんなことはしたくない。
だがセオドールに本当のことを明かすつもりはない。
こいつの父親はデスイーター。
父上が他のデスイーターを出し抜こうと思って僕にアシハラを懐柔させようとさせているのがわからないほど子どもではない。


「僕は使えるものを使うんだ。嫌々受けてる授業だとしても僕が落第点を取るのを父上は良しとはしない」


アシハラの体質のお陰でこういう言い訳が出来るのはありがたい。
まあその体質に目をつけて懐柔しようとしているわけだが。


「…そういうことにしとく?」


セオドールは浅く笑って踵を返して去っていく。
笑うとは珍しい。
あいつも勘がいいから嫌いだ。



*



アシハラがゴイルまで引っ張って走っていったのには驚いた。
医務室から帰ってきたゴイルはぼーっとしている。
なんだかんだと世話を焼かれて悪い気はしなかったのだろう。
馬鹿め。
アシハラはお人よし馬鹿というカテゴリに配されるだろう女子だということはなんとなくわかってきた。
最近の魔法生物飼育学ではブルストロードやグリーングラスがアシハラの背後に隠れるようになったが、アシハラは嫌な顔一つせず彼女たちを背後でかばいながら行動している。
本当に馬鹿なんじゃないか?




topしおりを挟む
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -