番外編
PRIMAL AFFECTION
俺は初恋を、ある一枚の肖像画に捧げた。



「吉報だ!」


ある夏の日、夕方仕事から帰ってきた父さんはいつにないはしゃぎようで母さんに駆け寄った。


「リーザだ!戻ってきた!魔法界へ!」
「まあ!」


母さんは父さんの言葉にまず驚き、それから満面の笑みを浮かべた。


『リーザ』という人物を知っている。
直に顔を合わせたことはない。
だがその人物の清らかな美しい顔も、凛とした声も、俺は知っている。
ホグワーツで同級生として出会い、恋をして結婚したという両親の、学生時代のいくつかの写真。
そのどれにも『リーザ』は写り込んでいる。
両親の同級生で、めまいがするほど美しい女性だ。
そして、我がハッフルパフ談話室に今でも彼女はいる。
肖像画だ。
在学中ハッフルパフの女王と崇められたリーザ・ツダの肖像画、『リーザ』を接着術で永久に談話室の住人にしたのが俺の両親だ。


昔の話をするときに、両親はいつでも『リーザ』のことを語った。
どんなに素晴らしい女の子だったか。
ハッフルパフ寮生の母であり姉であった彼女にどんな悲劇が襲ったか。
『リーザ』は卒業とともに日本へ戻り、魔法界から去ったという。
もう会えなくなってしまった友人のことを、両親はいつでも寂しそうに語った。
俺もそれを残念に思って聞いた。
その彼女が――。


「どうして?『リーザ』は戻ってきたくはなかったんじゃない…?こんな世界に…」


彼女にとって、魔法界は完璧によくない世界だ。
闇の陣営の残党がそこかしこで息をひそめて、ときを待っている。
父さんは俺の問いに切なげに眉をひそめ、それから口を開いた。


「娘がいるそうだ。今年ホグワーツに上がる。その娘が、リーザの能力を引き継いだ」


聞くと、『リーザ』は日本に戻り、日本人と結婚したらしい。
どうやら彼女は娘のため、魔法界に戻ってこざるを得なかったようだ。
それでも、嬉しいことだ。
両親はもちろん、自分にとっても。
俺はずっと、『リーザ』に直接会ってみたかった。


「セド、自慢の息子や」


父さんが俺の肩を掴んで顔を覗き込んできた。


「お前は賢い子だ。聞かせただろう?私たちにとって、リーザがどんなに大事な友人だったか」
「彼女の人柄を直接には知らないあなたが、リーザを怖がるのは無理のない話よ」


父さんの言葉を母さんが引き取る。


「それでもね、リーザを邪険に扱わないでほしいの。本当に、わたしたちにとって、彼女はかけがえのない友人だった…。『あの人』の血を引いていることなど、些細なことに思えるくらいに」


心配顔の両親に向けた俺の表情は、自然と笑顔になった。


「まさか。俺がそんなこと気にすると思う?ホームシックでぐずぐずやってる一年生の俺を必ず慰めてくれたのが『リーザ』だったのに。いつ会わせてくれる?一緒に食卓を囲む機会を作ってくれるんだよね?」


俺の言葉に両親はほっとしたように笑った。



*



寝過ごした。
大失態だ。
今朝は『リーザ』が来るはずだったのに。
時計はとんでもない時間を指している。
寝巻のまま飛び出して階段を駆け下りようとするところで、玄関ホールに響く声を聞いた。


「息子はまだ寝てるのよ、そろそろ起こす時間だわ――」
「母さんなにか言った?」


階段から階下を見る。
母さんが連れているのは小さい女の子だ。
一般的な一年生よりもうんと小さい。
黒髪のその子に、肖像画の『リーザ』との共通点は見当たらなかった。
『リーザ』はもう行ってしまったあとらしい。


「セド!今朝は女の子が来るって言ってあったはずだけど?」
「あ、そうだった」


寝間着姿の俺が気に入らなかった母さんの苦言をさらりとかわし、俺は自室に引っ込んだ。
まずほっとする。
『リーザ』の娘は、彼女とは似ても似つかないアジア人の女の子だ。
失礼にも、外見だけで『リーザ』の娘に恋をしてしまうという可能性がなくなったのは喜ばしい。
ただ、同じくらい残念でもある。


身だしなみを整えるのにたっぷり時間を使って居間に向かう。


「おはよう」


ぱっとソファに目をやる。
『リーザ』の娘はソファにちょこんと腰かけていて、ゆっくり俺に振り向いた。
母国語でない言葉を操る、たどたどしい喋り方。
人種の違いの体格差。
差し出した俺の手をおそるおそる握ったユーリは、なんだか守ってあげるべき存在だと思った。
妹がいればこんな感じなのかもしれない。


「困ったことがあったらなんでも言って。力になれると思うよ」
「ありがとうございます」


ほっとしたように眉を下げて微笑んだユーリは、とても可愛らしい女の子だった。



*
セドリックは最初から悠莉さんがヴォルデモートの孫娘だと知っていたことになります.
それでも厭わず優しくしてくれたのは母親の功績です.
初恋の肖像画『リーザ』の娘>ユーリ だったのが学校生活で接していくうちに不等号が逆転し,いつの間にか妹のような存在,という風になったのが管理人の理想です.


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