もしもシリーズ
02
悠莉のもとには朝、ハグリッドからお茶会の誘いの手紙が届いていた。
魔法薬学を終えてすぐ、悠莉はハグリッドが住むという校庭の隅の小屋へ向かう。
ハグリッドは小屋を訪れた悠莉を見た瞬間、急いて声を上げた。


「ユーリ!スリザリンでいじめられとりゃせんか!?」
「大丈夫、今のところは…」


悠莉は苦笑いして、それから飛びかかってきた黒い犬を撫でた。
ファングというらしい。
悠莉は生き物はなんでも好きだし、それが伝わるのか小さい頃から生き物に好かれる。
ハグリッドはそんな悠莉を見て心底嬉しそうにした。
悠莉がハグリッドの友人だった祖母の孫娘だというのを実感したという。
悠莉の祖母は誰もが驚くほど生き物に好かれる人だったらしい。


完璧に東洋人の容姿で、拙い英語を喋る悠莉がスリザリンにいることが気に入らないスリザリン生が何人かいるようだったが、ドラコが悠莉のことを自分の親戚だと紹介したことでそんな目は随分柔らかくなった。
イギリス以外にも魔法族はいるようなので、悠莉は日本出身の純血の魔女だと思われているようだ。
スリザリンは外部の生徒に嫌われているようで、なるほど寮生同士は仲がいい。


「なんだってお前さんがスリザリンに…」
「わたし、みんなが仲良しのところがいいってお願いしたの」
「そうか。確かに、スリザリンは結束が固い…。アストレイアは兄さんも妹、弟もスリザリンだった。組分け帽子はそれを覚えてたんだろう」


ハグリッドは渋い顔で言ったが、それからはその話題を口にしなかった。
組分けは終わってしまったからもうあれこれ言うのは無駄なことだと思ったらしい。
悠莉の祖母も母親もハッフルパフ寮出身だったらしく、ハグリッドはグリフィンドール寮生だったという。


「今からハリー・ポッターが来る。仲良くするといい」
「グリフィンドールの一年生?」
「もう知り合いか?」


ハグリッドの問いに、悠莉は首を横に振る。
彼が魔法薬学教授に散々やり込められていたのを今し方見てきたばかりだが、一言も口を利いてはいない。
ただ、スリザリン寮生が大広間で彼を見てひそひそ言い合ったり、組み分けで全校生徒が彼に注目していたのは悠莉も覚えている。


(ママはハグリッドと喋ってるときに、ハリー・ポッターを『生き残った男の子』って言ってた――。有名な人なのかな?)


*


「こんにちは」


悠莉を見てぎょっとしたグリフィンドールの男の子二人に、悠莉は苦笑いで挨拶する。


「ハリー・ポッターと、友だちのロン・ウィーズリー。こっちは俺の友人の孫娘、ユーリ・アシハラだ。仲良くしてやってくれ」
「う、うん。よろしく」


黒髪のハリーの方は引きつり笑いで頷いた。
赤毛でのっぽのロン・ウィーズリーは憮然として悠莉のことをじろじろ見ている。
悠莉は彼らがスリザリン生を嫌いそうなのがわかった。
悠莉は先程スネイプに贔屓されて加点されたばかりだ。


「よろしくお願いします」
「アシハラ、きみ、マルフォイの親戚ってまじ?」
「そうみたい」


悠莉が頷くとロン・ウィーズリーは嫌そうな顔をした。
なんとなく不本意で、さらに続ける。


「でもすっごく遠いの。『またいとこ』って言うんだって、お祖母さん同士が姉妹で」
「へえ」


ロン・ウィーズリーはそれでも嫌そうなままだった。


「でも、きみのラストネームって珍しいよね?どこ系の人なの?」


ハリー・ポッターは悠莉のことを移民系のイギリス人だと思っているらしい。


「わたしは父が日本人のマグルで、母が日本人とのハーフの魔女なの。だからイギリス人じゃなくて日本人だよ。ついこの前まで自分が魔女だなんて知らなかったし、イギリスの学校に通うことになるなんて思いもしなかった」
「マグルとして育ったってこと?」


ロン・ウィーズリーが目を見張るのを見て、悠莉は頷く。


「うん。それに喋り方も、変でしょ?母国語は日本語だから、教科書を読むのもレポート書くのも大変なの」
「でも、スネイプがスリザリン生には加点するじゃないか」
「ロン」


あからさまに贔屓で加点された悠莉を、ロン・ウィーズリーは快く思っていないらしい。
ハリー・ポッターの方はそんなロン・ウィーズリーを軽く諌める。


「スネイプ先生は、ちょっと、ダメな先生だね…。でも、マクゴナガル先生はそんなことないね。読むのが遅いし綴り間違いもするから、魔法辞典を読むべきだって一冊くださったの」


彼らの寮監・マクゴナガルを褒めると、二人は嬉しそうにした。
スネイプをダメな先生だと断じたことも大きいようだ。


「でも、どうしてマルフォイはアシハラにまとわりついてるんだ?あいつ、マグルや混血が大嫌いなんだ」


ロン・ウィーズリーの言い分については悠莉も疑問に思っている。
マグル生まれの魔法使いやマグルを下に見ているらしいドラコが悠莉に親切にするのは不自然だった。


「…同年代の親戚はわたし以外にいないって言ってたから、それでかな?」
「そんな理由で?」
「同じスリザリンに組分けされた人をどうこう言い続けるのも馬鹿らしいって思ったのかも…。スリザリンの人たちは選民意識が強いみたいだし…」


悠莉が歯切れ悪く言ってもロン・ウィーズリーは納得がいかないようだった。
そんな彼をまたハリー・ポッターが諌める。


「わたし、そろそろ帰ろうかな」


悠莉はファングをひとしきり撫で、立ち上がる。
先程からグリフィンドールの二人はちらちら悠莉を見ているし、内緒話でもしたいのかもしれない。
スリザリン生は信用していないとあからさまな態度を取られると少しは傷つくが、他寮生に対する同寮生の態度でそれは仕方がないことだとも思う。


「またね、ユーリ」


意外にも、ハリー・ポッターは悠莉に向かってかすかに微笑んで手を振った。
親しげにファーストネームで呼びかけさえした。
悠莉はそんなハリーの態度に微笑んで手を振り返して、ハグリッドに挨拶して小屋を出る。


(ユーリって呼んでくれたから、わたしもあの子のこと、ハリーって呼んでいいのかな?)


悠莉はにっこりした。
ロン・ウィーズリーはともかく、ハリーは悠莉と仲良くしてもいいと思ってくれたらしい。
彼らのような他の寮の生徒とも仲良くなれるといい。
そう思って、悠莉は城へ向かって歩き出した。


***


スリザリン生の悠莉さんも、ハリーたちと仲良くなれそうです!




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