もしもシリーズ 01『とても優しい子だ。穏やかで、賢く、勇気もある。だが一番相応しいのは…』 「スリザリン!」 帽子の声に、緑の一団は少数がぱらぱらと拍手をするだけだった。 悠莉は上級生の女の子たちの中に押し込まれて、おろおろしながら教員席を見る。 ダンブルドア校長が教員席の黒髪の男性になにかを耳打ちすると、男性の驚愕の視線は悠莉に降ってきた。 (なんだろう?) 「どうして外国人がうちの寮に?」 「外国人と言っても侮れないわよ。ホグワーツに招かれる血筋の生まれなのよ」 ひそひそ語り合う上級生の片方、綺麗な金髪の女の子がカボチャジュースを手渡してくれた。 悠莉はそれを飲みながら黙って組分けを眺める。 上級生の女の子たちはマグルがどうのこうのと言っていて、この寮の生徒たちにとってマグルが差別の対象なのは薄々わかった。 外国人を下に見ているようだというのも。英語風に言うとアシハラとなる悠莉の名字は日本のもので、英語圏では聞き慣れないのだろう。 (なんか、すごいとこ来ちゃった…。マグル育ちとか言わない方が良さそう…) 悠莉がしょんぼりしていると、船で出くわしたあの男の子がスリザリンに組分けされて満足そうに歩いてくるところだった。 「マルフォイよ」 「お父さまが理事やってる、純血一家の長男ね?」 悠莉の左右の上級生がまたひそひそやっている。 マルフォイは悠莉の真正面の席を勧められて、そこにかけた。 「スリザリン?」 マルフォイが悠莉を見て眉をひそめた。 (わたしの方が先に組分けされたのに、) 興味がないことは見ていなかったと言わんばかりの口振りだ。 「うん。ユーリ・アシハラだよ、よろしく…」 控え目に言った悠莉を浅く笑って、マルフォイが前髪をはらった。 「…家名は聞いたことがないが、まあいいだろう。スリザリンへようこそ」 (二度言うけど、わたしの方が先に組分けされた!) 同じ寮に配されてしまったのだから、馬鹿にすることはできないと思ったのだろうか。 それでも仲良くする気がないのはありありとわかった。 「お前、外国人だろう?」 「うん、日本人」 スリザリンに外国人がいるのが気に入らないらしい。 マルフォイに尋ねられ、悠莉はオレンジジュースを飲みながら短く返す。 「どうしてホグワーツへ?」 「母も祖母もこの学校だったの」 「この国の魔法使いの血を引いているのか?」 (…わたしなんかほっておいてくれたらいいのに) 左右の上級生も興味津々で悠莉たちの会話を聞いている。 「祖母がこの国の魔女だったの」 「名は?」 「アストレイア・ロジエール」 いつか聞いたことがあった母方の祖母の名を口に出すとマルフォイの目つきが変わった。 「アストレイア・ロジエール?そういえば祖母には姉がいたと聞いたことがある」 マルフォイがテーブル越しに悠莉に向かって手を差し出した。 「へ?」 「ドゥルーエラ・ロジエールの孫、ドラコ・マルフォイだ。きみとは『またいとこ』ということになる」 悠莉がおっかなびっくり握手に応じるとドラコは満足そうだった。 「同年代の親戚に会うのはきみが初めてだ。ユーリ、純血の家に恥じない行動をしてくれたまえ」 (なんか、この子とは仲良くなれるか…) 悠莉は不安になった。 ここまで上からものを言う同級生は彼が初めてだ。 ただ、それでも父母が一人っ子だった自分にとっても同年代の親戚に会うのは初めてのことだった。 * 「見たまえ、ミス・アシハラの完璧な魔法薬を。スリザリンに十点」 あの黒髪の男性が、スリザリン寮監で魔法薬のスネイプ教授だと悠莉は知ることになる。 確かに、初めてにしては魔法薬の調合は上手くいった気がする。 授業が始まって以来、英語が少し不自由な悠莉になにかと世話を焼こうとするドラコも、悠莉の隣で満足そうに胸を張っている。 だが、そのまた隣のグリフィンドールの女の子が自分と遜色ない魔法薬を作り上げているのを見て、悠莉は閉口した。 (スネイプ先生って、自分の寮の生徒を贔屓する、ちょっとダメな先生なのかも…) 「それに比べて…。ポッター!なぜロングボトムに材料の間違いを教えてやらなかった?ロングボトムが失敗すれば自分の方がよく見えると思ったな?」 スネイプの発言は完璧に言いがかりだった。 (ちょっとどころじゃなくって、とんでもなくダメな先生だ…) スリザリンで上手くやっていけるか、悠莉はまた不安になった。 *** スリザリンの悠莉さんはちょっと腹黒です.そしてこのドラコはルシウスから祖母の姉が闇の帝王の血を引く娘を産んでいることを聞いているので,悠莉さんを闇の帝王の孫娘と知って打算的に優しいんです;まあ,どうせスリザリン生でも悠莉さんは生き物好きのハグリッド伝いに三人組と仲良くなるんですけどね・ω・笑 ← | top | しおりを挟む | → |