番外編 只今絶交中*(フレッド視点) レイブンクロー戦はグリフィンドールの勝利で幕切れた。 喜びの宴のため、俺たちは四階の隻眼の魔女像に向かう。 ホグズミードへ繰り出し、ハニーデュークスで菓子類を手に入れるのが俺たちのミッションだ。 「おい、あれ」 ジョージが俺を小突いた。 ジョージにならって廊下の向こうへ視線をやると、よく見知った顔がいた。 ユーリ・アシハラだ。 隣り合って歩いているのは、今し方俺たちが対戦したばかりのレイブンクローチームのキャプテン・デイビース? 「なんでユーリがデイビースと?」 ジョージが不愉快そうに眉をひそめた。 ユーリはデイビースとなにやら楽しそうに語り合っていて、お互い笑顔で手を振って別れたところだ。 ぱっとこちらに向き直り、俺たちがユーリを見ているのに気付いて気まずそうな顔をする。 ここはどうやっても一本道なので、ユーリはその表情のまま俺たちに近付いてきた。 「…試合、勝ったんでしょ?おめでとう」 ユーリはもごもごと俺たちを労った。 デイビースに勝敗を聞いたらしい。 「なんであいつといるんだ?」 ジョージが訝るとユーリは困った顔をした。 「医務室で一緒になったの」 風邪でもひいてるのかもしれない。 ユーリは毎年風邪で入院する寒さに弱いやつだ。 絶交中で軽口を叩くつもりもない俺たちの心情を読み取ったのか、ユーリは肩をすくめて俺たちの脇をすり抜けた。 無視するとはいい度胸だ。 「お得意のお説教はいいのか?」 ユーリの背中に向かって嘲るとジョージも続く。 「俺ら、今からホグズミードに行くんだぜ?」 ユーリはゆっくり振り向いて、ため息をついた。 それからゆるく首を振ったあと、まっすぐ俺らを見た。 「引きとめてほしいなら今からマクゴナガル先生に報告に行ってもいいけど?」 挑むように、ユーリは言った。 「好きにしたらいいでしょ」 ユーリはそう吐き捨てて、踵を返し去っていった。 * 俺たちはしばらく立ちつくしてユーリの背中を見送った。 「…あんな冷たい言い方する奴だっけ?」 ジョージが困惑顔で覗き込んできた。 自分もこんな表情をしているとは思いたくない。 「一人前に怒ってるんだろ。さっさと行こうぜ、ハニーデュークスか閉まっちまう」 ジョージと一緒に隻眼の魔女像の下に潜る。 ジョージはユーリの話題をやめなかった。 「ユーリのやつ、ハリーがホグズミードに行った日にゃあんなに神経質に食ってかかってきたくせに」 好きにしろと突き放されたのがジョージは気に入らなかったらしい。 ま、俺だってかちんときたけど。 「俺らのことなんてどーでもいいのさ」 「そーいう奴だとは思わねえけど…」 ジョージが歯切れ悪く言うのにいらいらする。 どうして俺らが絶交中のあいつのことを話し合うんだよ。 「ジョージ、ちびちゃんに心配されたかったのか?」 「まさか!」 それから少しの間、俺たちは黙って歩き続けた。 ホグズミードは遠い。 だいたい、あっちが悪いんだ。 ホグズミード休暇、俺らに付き合えって言ったのは軽く断って、ディゴリーとはデートしに行くようなやつ。 グリフィンドール生なのに、他の寮のクィディッチ選手と仲良くして。 「ディゴリーばかりかデイビースにまで手出してるとは」 俺が鼻で笑うとなぜかジョージが反論した。 「向こうから寄ってくるんだろ。だいたいにこにこしてて、人当たりいいやつだし…」 「…まあ、ちょっとぐらいいたずら仕掛けてもわーわー言わねえしな」 アンジェリーナあたりなら本気のグーパン繰り出してくるくらいのちょっかいをかけても、ユーリはほとんどにこにこして俺らをやんわり諌めるくらいだ。 かなり心の広い奴だというのは認めよう。 「…おめでとうって言ったよな」 ジョージの言葉に思い出すユーリは、確かに、気まずそうにしながらもまず俺らを労った。 「俺なら無視して通り過ぎてる場面だ…」 ジョージが落胆して言うのにいらいらする。 だから、なんで俺らが! 「あーやめやめ!試合に勝っていい気分のときに、ユーリの話題はよせ」 「そうだな、うん。やめよ…」 ジョージはそれきりユーリの話をやめた。 すっぱり頭を切り替えて、閉店間際のハニーデュークスで菓子類を手に入れた俺たちは意気揚々談話室に戻る。 祝宴もどきにユーリの姿はなかった。 * イースター休暇明けの試合へ向け、オリバーの鬼の特訓を終えてへとへとになって帰ってきた談話室は生徒たちで賑わっている。 ハリーはまっすぐロンとユーリに合流した。 ユーリがハリーになにやら差し出して、面倒を見ている。 「フレッド、わたしたちも課題やらなきゃ」 アンジェリーナ、アリシアがさっそくテーブルにイースター休暇の課題を広げているのを見て舌を出した。 ジョージは渋々課題に取り掛かっている。 ハリーも同じようなことをされてるところなんだろう。 課題を提出出来なければマクゴナガルは俺たちをチームから外すだろう。 そういうことには容赦がない教師だ。 俺も渋々、羽ペンを握った。 「そんなわけないよ!ユーリは可愛い!」 突然談話室にハリーの大声が響いた。 談話室中みんなハリーとユーリを見る。 ユーリは困ったようにわたわたして、それからうつむいてなにかを言った。 顔はうっすら赤い。 かなり面白くない。 子分を取られた気分だ。 * オリバーはタイミングが悪い。 てか空気が読めない。 明日はクィディッチファイナルだ。 俺たちはユーリと、まあちょっとはこっちが悪かったと思い直すことにして、仲直りをしてもいいと思い始めていた。 ハリーが緊張でガチガチなのを見て景気づけしてやろうと近付いたとき、ユーリは俺らにも声をかけてきた。 『三人とも、頑張ってね』 あっちも十分反省したみたいだ。 仲直りには絶好の機会だった。 …オリバーはまじでタイミングが悪い。 * 「ならよかった。二人が好きそうなものももらってきたの」 ユーリはそう言ってにこにこ笑った。 ここ最近は、怒っているか、無表情か、遠慮がちにこちらを窺っていたユーリが久しぶりに心からにこにこしているらしいところを見た。 「でもね、わたしも気付いたの。二人は二人なりにハリーを元気づけようとしてたんだって。それをあんな風に、頭ごなしに怒ってごめんね。絶交されても仕方なかった」 ユーリはそう言って潔く頭を下げた。 俺はジョージとぱっと顔を見合わせて頷き合う。 ちっちゃなユーリは次の瞬間俺たちに押しつぶされた。 ユーリは色々使えるやつだし、能天気で付き合っていて苦にならない人種だ。 やっと俺たちの子分が戻ってきた。 *** ツンデレっていうか…・ω・; ← | top | しおりを挟む | → |